経営者保証を外すにあたって経営者保証に関するガイドラインをまずは知る

経営者が、会社が銀行から受けている融資の連帯保証人となっているのであれば「経営者保証に関するガイドライン」(以下、経営者保証ガイドライン)を知っておきたいです。経営者保証ガイドラインは2014年2月にスタートしました。経営者保証ガイドラインは、経営者の個人保証について、

  1. 一定の要件に当てはまれば経営者の個人保証を求めないこと。
  2. 個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費を残すことや、華美でない自宅に住み続けられることなどを検討すること。
  3. 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること。

などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期の事業再生を勧める趣旨となっています。

経営者保証に関するガイドラインが制定されるまでの10年間の流れ

21世紀に入ってから連帯保証人問題は大きく改善されました。2005年に包括根保証(限度額や期限の定めがない保証契約)は禁止されました。2006年に信用保証協会保証付融資において第三者保証人は原則禁止され、2011年にはプロパー融資(信用保証協会保証付でない融資)でも第三者保証人を銀行は求めないことを原則とされました。そして2014年、経営者保証ガイドラインがスタートしました。

 

包括根保証の禁止(2005年)

  • 保証契約は書面で行わなければ無効(民法446条)
  • 極度額の定めがない根保証契約は無効(民法465条の2)
  • 保証期間の上限を5年とする(期限の定めがない場合は3年)(民法465条の3)

経営者保証に関するガイドラインの構成は大きく2つに分かれる

経営者保証ガイドラインの構成は、大きく2つに分かれています。一つは保証契約においてのガイドライン、もう一つは保証債務を整理する時の手続きです。

(1)保証契約においてのガイドライン

主な内容は次のとおりです。

  • 経営者保証に依存しない融資を銀行は促進すること。そのために融資手法のメニュー充実などをはかること。
  • 経営者保証なしで融資を受ける場合に必要な要件。
  • 経営者を保証人とする場合には、なぜそれが必要かを銀行は企業や保証人に説明すること。
  • 経営者を保証人とする場合は適切な保証金額の設定を行うこと。
  • 既存融資の保証契約についても見直しを検討すること。
  • 事業承継時の後継者と前経営者の保証について。

(2)保証債務を整理する時の手続き

企業が債務整理を行う時、保証人の保証債務をどう整理していくかがガイドラインとして定められています。この整理手続きでは、中小企業再生支援協議会などを活用していきます。

保証人にはどれだけの資産を残すのか。債務整理の上で事業を継続するのであればどれだけの資産を残すのか、事業を清算するのであれば一定期間の生計費や華美でない自宅などの資産をどれだけ残すのか、が検討されます。

経営者保証ガイドライン記載の経営者が保証人とならずに融資を受ける3要件

経営者保証ガイドラインで特に注目すべき点は、経営者が保証人とならないで融資を受けるにはどのような状態が必要か、要件が明文化されていることです。

中小企業への融資では、銀行は経営者に保証人となるよう要求することは多いですが、その弊害として後継者が現れにくくなることがあります。後継者として経営を継いだ後に自分が経営者として保証人になることを嫌がる人は多いです。

後継者が現れなければ、現経営者が高齢となって働けなくなると会社は廃業せざるをえません。そうなれば、会社が今まで築いてきた商品・サービス、技術力・販売力、取引先への信用など、全て無となってしまいます。また従業員は次の仕事を探さねばなりません。

経営者保証ガイドラインでは、経営者が保証人とならなくてよい要件として次の3つを提示しました。

(1)企業と経営者との関係の明確な分離

銀行が経営者に保証人となることを要求する理由の一つに、銀行から融資を受けた後、企業の資産を経営者個人に移してしまえば企業が銀行へ返済できなくなっても経営者は私財を蓄えることができるモラルハザードを防ぐことがあります。

中小企業では、企業と経営者個人の資産の区別がつかなくなりがちです。例えば経営者個人所有の土地の上に事務所・店舗・工場などを建てて事業で使用したり、経営者個人の私的な飲食代や旅費交通費を会社の経費で落としたりすることなどです。

経営者保証ガイドラインでは経営者が保証人とならない要件として、企業と経営者との間の資産や資金のやりとりは社会通念上適切な範囲を超えない体制の構築を求めています。具体的には次のとおりです。

  • 企業の事業活動に必要な本社・工場・店舗・営業車などは企業所有とする。なお経営者個人の所有から企業所有へ切り替えられないのであれば、銀行へ担保提供されていたり、経営者による資産処分が企業と経営者個人との契約書により制限されていたりするなど、経営者の都合による資産売却が制限されていること。また、例えば事務所や店舗などが経営者個人の自宅と兼ねていたり自家用車を営業車としても使用したりするなど、企業と経営者個人の資産との明確な分離が困難である場合は企業が経営者個人に適切な賃料を支払うこと。
  • 企業から経営者個人への貸付は原則、行わないこと。
  • 経営者個人の私的な飲食代、旅費交通費などの費用は会社の経費としないこと。

(2)企業の業績や財務内容が良く、銀行への返済に懸念がないこと

銀行が経営者に保証人となることを要求する理由の一つに、経営者個人の資産により、企業の信用力の弱さを補完する、ということがあります。経営者が保証人とならなくても銀行が融資を行うには、それだけの信用力が企業にあることが求められます。企業の業績・財務内容が良く、銀行への返済に懸念がないことが、経営者保証なしで融資を受ける要件として求められます。

(3)企業の財務諸表が正確に把握でき、適時適切な情報開示が銀行にできて、経営の透明性が確保されていること

中小企業の決算書は、信頼性が低く見られがちです。融資を受けたい企業の中には決算書を粉飾して銀行から融資を受けようとする企業もあります。企業が銀行に提出する決算書は正しい決算書であることに責任を持たせるため、銀行は経営者に保証人となるよう要求します。

そこで経営者保証ガイドラインでは、経営者が保証人とならないためには、銀行に提出する決算書などの財務諸表が正しいものであることが証明され、経営の透明性が確保されていることを要件としています。具体的には次のような対応が求められます。

  • 貸借対照表・損益計算書の提出だけでなく、勘定科目内訳書の提出
  • 年に1回の本決算の報告に加え、試算表・資金繰り表などによる定期的な銀行への報告

経営者保証を外すためには企業から銀行へ積極的に交渉を

以上の3つが、経営者保証なしで融資を受けるために企業に求められる要件です。また既存融資においても、これらの要件が、銀行に対し経営者の保証を外す交渉を行う前提となります。

経営者保証を外すための3要件が現時点で当てはまっている会社であれば、すぐにでも銀行に経営者保証を外す交渉ができます。そうでない会社でも、数年後に3要件が当てはまる状態を目指す計画を立て、経営を行っていくとよいでしょう。

銀行から企業に対し、経営者保証を外すことを勧めてくることは期待できないです。銀行にとって経営者保証を外すメリットはないからです。経営者保証を外したいのであれば企業側から積極的に交渉していくべきです。