中小企業が資金調達する時、知人・従業員・取引先(以下、知人とします)などに社債を発行する方法があります。この時によく使う方法が、少人数私募債です。
少人数私募債は社債の一種です。ポイントは、社債を引き受けてくれる知人、つまりお金を出してもらえる知人を自ら探さなければならないことです。その点、知人からお金を借りるのと変わりません。知人からお金を借りる時には借用書を交わすのが普通です。一方、少人数私募債の場合、知人からするとお金を貸すイメージが弱まり、貸しやすくなるかもしれません。それが少人数私募債の大きなメリットです。
知人へお金を貸してもらうよう頼む場面を想像してみてください。借用書でお金を借りる場合の知人への言い方は「お金を貸してほしい。」となります。一方、少人数私募債の場合は「社債に投資してほしい。」という言い方ができます。このように知人としては、少人数私募債の方がお金を貸すことへの抵抗が薄れます。
一方、少人数私募債の大きなデメリットは、借用書の場合に比べてたくさん書類を用意しなければならず大変ということです。
財務内容が良くない会社でも少人数私募債で資金調達できる
少人数私募債は知人からの資金調達であるため、銀行や日本政策金融公庫などから融資を受けられない会社が特に活用できる資金調達手段です。会社の財務内容による制約がなく、財務内容が芳しくない会社でも少人数私募債を発行して資金調達できます。
少人数私募債の発行要件
- 50 名未満に対して勧誘できます。したがって少人数私募債を引き受ける人は最大49名となります。50名以上に引き受けてもらうのはだめで、50名以上に勧誘してもいけません。
- 社債総額を1口の金額で割った数値が 50未満である必要があります。例えば1口 50万円の場合、50万円×49=2450万円以下が社債総額となります。
- 勧誘した相手が必ずしも少人数私募債を引き受けてくれるわけではありません。そのため、はじめに決めた社債募集総額に、実際の応募額が届かないかもしれません。その場合、実際の応募額で社債発行総額が決定となります。
- 担保・保証人は、要件ではありません。
- 社債管理者を設置する必要はありません。社債管理者へ事務を委託する場合、手数料がかかりますが、少人数私募債ではその分、コストがかかりません。
- 少人数私募債で資金調達する場合の償還と金利について
少人数私募債では「返済」の代わりに「償還」という言葉を使います。償還期限や償還方法は少人数私募債を発行する会社が決めてよいです。一般的に償還期間は3~5年が多いです。
金利も少人数私募債を発行する会社が決めてよいです。少人数私募債を引き受ける人、つまりお金を出す人としては、銀行に預金するより高い利息を得られることを期待します。また信用力の低い会社は、金利を高めに設定しなければ少人数私募債を引き受けてくれる人が集まりにくいでしょう。
少人数私募債で資金調達するメリット
- 資金調達の多様化につながります。今まで行ってきた銀行や日本政策金融公庫からの融資に加え、社債発行という手段が加わります。また資金調達先が金融機関以外に多様化します。
- 融資審査が不要です。金融機関から資金調達する場合は厳しい審査が必要ですが、少人数私募債では審査はありません。
- 従業員が少人数私募債を引き受けた場合、従業員の会社経営への参加意識を高めることができ、モラルアップにつながります。また少人数私募債募集の際に経営計画書の説明や決算書等経営情報の開示を行えば、従業員に会社の経営内容や方針を理解させる機会となり、従業員は会社のために協力しやすくなります。
少人数私募債で資金調達するデメリット
- 発行手続きが煩雑です。
- 少人数私募債を引き受けてくれる知人を探さなければなりません。
- 少人数私募債の募集を行う際、決算書などの経営情報や経営計画書を開示するのであれば、自社の情報を外部に知られることになります。
少人数私募債を引き受けてくれる人を集めるには経営計画書が重要
少人数私募債は金融機関による審査がないとは言うものの、知人に引き受けてもらわねばなりません。引き受けてくれる人がいなければ資金調達できません。知人が少人数私募債を引き受けたくなるようにアピールしなければなりません。アピールするために良い資料は「経営計画書」です。
経営計画書には、次の項目をいれると良いでしょう。
- 会社概要
- 事業コンセプト
- 経営理念
- 事業の概要・自社の強み・自社の弱み
- 市場の特徴・市場をどう攻略していくか
- 直近3年間の業績推移
- 今後の損益計画
- 少人数私募債発行の目的
- 資金の使い道と資金調達方法
- 少人数私募債により集めた資金投入の効果
少人数私募債を引き受けるのは、お金を貸すことと同じですから、発行する会社の内容をくわしく知りたいものです。決算書や経営計画書を隠すことなく開示した方がよいです。決算書の内容が芳しくなくても、経営計画書により今後の経営への意気込みを伝えられるとよいです。
少人数私募債を発行する手続き
手順 | 社債発行会社の手続き | 社債購入者の手続き |
発行計画・決議
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募集要項の決定
経営計画書作成 |
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株主総会や取締役会に
よる社債発行の決議 |
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募集・申込み | 勧誘書類・申込書類の作成 | |
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募集先の選定 | ||
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社債応募者の受付 | 社債引受け申込み | |
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社債発行金額の確定 | ||
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払込金受領 | 払込み | |
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社債発行 | 社債券・利札の発行 | 社債券・利札受領 |
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発行後の管理 | 社債原簿の作成・記帳 | |
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利払い | 利息受領 | |
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償還 | 満期償還 | 元金受領 |
少人数私募債は作成しなければならない書類が多く、とても面倒なようです。ただし少人数私募債について市販の解説書を読むと書類の様式が載っているので、それを参考に作成すれば困難なことではありません。また行政機関に提出する書類もないです。