日本政策金融公庫(国民生活事業)に融資を申し込むと、面談日時の指定とともに、面談時の必要書類を書いた通知書が送られてきます。2つ、見てみます。
1つ目の通知書(建設業・面談時期2018年5月)
(1)法人税・事業税・消費税(2017年8月期分)及び源泉所得税(最近6カ月分)の領収書。 (2)預金通帳(普通、定期、積立など。代表者個人名義分を含みます。) (最近12カ月分以上) ※取引上よく使用されているもの、公共料金や借入金等のお支払に使用されているものなどをお願いいたします。 ※事前に記帳のうえお持ちいただくようお願いいたします。 (3)借入金のある場合は、毎月のお支払額、借入金残高のわかるもの(支払明細表など。代表者個人名義分(住宅ローンなど)を含みます。) (4)固定資産税課税明細書(2018年分)(代表者個人名義分も含みます) (5)営業許可書 (6)運転免許証 (7)2017年8月以降の月別の売上の分かるもの |
2つ目の通知書(運輸業・面談時期2018年12月)
(1)最新決算期(2018年8月期)及び最新決算期以降(2018年9月~2018年10月)の月別売上高の分かる資料 (2)預金通帳(普通、定期、積立など。代表者個人名義分を含みます。) (最近6カ月分以上) ※取引上よく使用されているもの、公共料金や借入金等のお支払に使用されているものなどをお願いいたします。 ※事前に記帳のうえお持ちいただくようお願いいたします。 (3)借入金のある場合は、支払明細表など次の内容が分かるもの ・法人:決算期(2018年8月期)時点の借入金残高、月々の元金返済額 ・代表者個人:現在の借入金残高、月々のお支払額(住宅ローン・車ローンなど) (4)不動産の賃貸借契約書及び家賃の領収書(自宅)最近6カ月分以上 (5)営業許可書(更新されているものの写しをご用意ください。) (6)運転免許証、パスポート、在留カード、特別永住者証明書 ※いずれかご都合の良いものをお持ちください。いずれもお持ちでない場合は、担当者にご相談くださるようお願いいたします。 (7)資金繰り表(お手数ですが、同封の用紙に可能な範囲でご記入をお願いします。同様の資料を作成されている場合はそちらをご提出いただいてもかまいません。 |
共通して要求されているのが預金通帳。これは「取引上よく使用されているもの」で、会社の全ての預金通帳ではありません。また「取引上よく使用されている」預金通帳とは「公共料金や借入金等のお支払に使用されているもの」とのことです。そして会社の預金口座だけではなく、法人の代表者のものも要求されています。こちらも「取引上よく使用されているもの」です。
日本政策金融公庫から預金通帳を見られるということは分かりました。ではどれぐらいの期間、預金通帳の動きを見られるのでしょうか。片方の通知書には最近6カ月以上、もう片方の通知書には最近12カ月以上、と書いてあります。この違いは何でしょうか。
12カ月を要求された会社は、日本政策金融公庫を今まで使ったことのない会社。6カ月を要求された会社は、日本政策金融公庫ですでに借入れのある会社でした。ただ、日本政策金融公庫から借入れがあるかないかで、要求される月数が違うとは断言できません。
日本政策金融公庫に持っていった預金通帳は、職員から入念に見られます。あまり見られたくない入出金がある人もいるのではないかと思います。では、見られたくない入出金が最近のことであるとして、最近の動きは記帳せずに持っていくという手は通用するのでしょうか。「※事前に記帳のうえお持ちいただくようお願いいたします。」という注意書きがしっかり書かれています。そのような小手先のテクニックは通用しません。
日本政策金融公庫が預金通帳を見るポイント
日本政策金融公庫の職員が、預金通帳のどこを見るか。次の3つがポイントです。
1.銀行からの融資の返済の延滞はあるか。返済を減額・猶予していないか。
2.売上の入金が会社からの申告通りあるか。
3.社会保険料の支払いに遅れがないか。
他に、日本政策金融公庫からよくつっこみのあるポイントは、次のとおりです。
4.税金は遅れなく支払っているか。
5.ノンバンクを使っているか。
6.二者間ファクタリングを使っているか。
それぞれを詳しく見てみます。
1.銀行からの融資の返済の延滞はあるか。返済を減額・猶予していないか。
銀行からの既存の融資の返済を延滞していたり、リスケジュール(返済減額・返済猶予)を行っていたりする会社は、日本政策金融公庫から新たな融資は出ないことが基本です。それはなぜでしょうか。
リスケジュールは全銀行、平等に行うことが原則です。日本政策金融公庫が新たな融資を行っても、その後に他の銀行から、日本政策金融公庫だけ返済を正常に行っていることにクレームを言われてしまいます。日本政策金融公庫としては、新たな融資を行ってすぐ他の銀行からクレームを言われ、リスケジュールを行わざるをえなくなるのではたまったものではありません。そのためリスケジュールを行っている企業へ新たな融資を出すことは基本、できません。
ただ、他の銀行すべてから、日本政策金融公庫のみ返済は正常に進めてよいという同意があれば、日本政策金融公庫は新たな融資を出すこともあります。
2.売上の入金が経営者からの申告通りあるか。
日本政策金融公庫では、決算書や試算表、毎月の売上高の申告や、融資申込書記載の売上情報に、経営者によるうそがあることが多いようです。だから預金通帳で、実際に会社からの申告どおりの売上入金があるかを確認されます。粉飾決算を見破るための日本政策金融公庫の取組みの一つです。
3.社会保険料の支払いに遅れがないか。
社会保険料は預金口座から自動引落しを行っている企業が多く、預金通帳でその動きを確認されます。
4.税金は遅れなく払っているか。
税金について、自動引落しを行っている企業は少ないため、預金通帳ではなく納付書を持ってくるように言われて確認されることが多いです。
5.ノンバンクを使っているか。
ノンバンクとは銀行ではない金融会社のことで、ビジネクストやビジネスパートナーのような金融会社です。高金利です。ノンバンクから借りていると、高金利の金融会社から融資を受けざるをえないほど資金繰りが厳しいのかと見られて、日本政策金融公庫は新たな融資の審査を厳しくします。ただノンバンクから融資を受けていても日本政策金融公庫からの融資に成功した会社は時々ありますので、あきらめることはありません。
6.二者間ファクタリングを使っているか。
二者間ファクタリングとは、ファクタリング手数料を10%~30%も取られながら売掛金をファクタリング会社に買い取ってもらい現金化することです。売掛先には売掛金をファクタリングしたという事実が知られず、資金調達したい会社とファクタリング会社との二者間でファクタリング取引が完結するということで、二者間ファクタリングと呼ばれます。二者間ファクタリングを初めて聞いた人には信じられないかもしれませんが、買い取る売掛金に対するファクタリング手数料を10~30%支払ってでも、資金調達をしている中小企業があるのです。
ファクタリング会社の名前は一見、金融会社のように見えないことが多いです。そのような会社名が預金通帳に記録されていても、日本政策金融公庫の職員は気づかないことが多いようです。二者間ファクタリングのこと自体を知らない職員も多いようです。しかし、同じ先に大きな入金や出金が繰り返しあるのが、二者間ファクタリングの特徴です。不自然な入出金の動きとして、職員から質問を受けることを想定しておかねばなりません。
日本政策金融公庫にいつ融資を申し込んでもよいように、預金通帳はきれいに
日本政策金融公庫に融資を申し込むと、面談時に預金通帳を持ってくるように言われ、中身をチェックされます。その時に、日本政策金融公庫の職員に疑念を抱かせるようなものがないよう、日ごろから預金通帳での入出金のやりとりは気をつけておきたいものです。