創業する時に使える融資の制度は次の2つです。

  • 日本政策金融公庫の新創業融資制度
  • 都道府県もしくは市区町村の創業融資制度(信用保証協会の保証が付きます)

この2つは同時に申込みできます。2つに申込み、審査が通ったからとどちらも借りる人もいます。どちらか片方を申し込むのなら、日本政策金融公庫の方が審査が通りやすいです。ここでは、日本政策金融公庫の新創業融資の審査を通しやすくする3つのポイントをお伝えします。

日本政策金融公庫の新創業融資を申し込みできる創業者とは

日本政策金融公庫の創業融資は「新創業融資制度」と言います。融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)、設備資金・運転資金の融資を受けられます。また無担保無保証人でよいです。

申し込みできる創業者の要件は次のとおりです。次の1~3のすべての要件に該当する方です。

1.創業の要件

新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方

2.雇用創出等の要件

(1)雇用の創出を伴う事業を始める方

(2)技術やサービス等に工夫を加えたようなニーズに対応する事業を始める方

(3)現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で次のいずれかに該当する方(現在の企業に継続して6年以上お勤めの方、もしくは現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方)

(4)大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方

(5)産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方

(6)地域創業促進支援事業又は潜在的創業者掘り起こし事業の認定創業スクールによる支援を受けて事業を始める方

(7)日本政策金融公庫が参加する地域の創業支援ネットワークから支援を受けて事業を始める方

(8)民間金融機関と日本政策金融公庫による協調融資を受けて事業を始める方

(9)(1)~(8)までの要件に該当せず事業を始める方であって、新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると日本政策金融公庫が認めた方で、1000万円を限度として本資金を利用する方

(10)既に事業を始めている場合は、事業開始時に(1)~(9)のいずれかに該当した方

3.自己資金要件

新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方。ただし「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」等に該当する場合は、本要件を満たすものとします。なお、本制度の貸付金残高が1,000万円以内の方については、本要件を満たすものとします。

 

1、2、3、全ての要件に満たす必要がありますが、要件を満たすこと自体、ハードルは高くありません。1では、これから創業、もしくは2期決算を終えていない、という要件を満たせばよいです。2では、10個もある要件の中から1つ満たせばよく、難しくないでしょう。3では、これから創業もしくは1期決算を終えていなければ融資を申し込む金額の10分の1の金額、ただし申し込む金額が1000万円以内であれば自己資金はなくてもよい、と言っています。

ただし、この3つの要件を満たせばよいということと、日本政策金融公庫の新創業融資制度の審査を通すこととは別の話です。では、審査を通すために何に気をつけたらよいでしょうか。

日本政策金融公庫の新創業融資制度の審査で特に見られる3つのポイント

日本政策金融公庫の新創業融資制度の審査を通すために、特に次の3点に気をつける必要があります。

  1. 自己資金
  2. 経験
  3. 個人信用情報

1.自己資金

日本政策金融公庫が定めている新創業融資制度の申し込み要件では、自己資金は、これから創業もしくは1期決算を終えていなければ融資を申し込む金額の10分の1の金額、申し込む金額が1,000万円以内であれば自己資金はなくてもよい、ということでした。

しかし融資審査を通すには、100万円ぐらいの自己資金がほしいです。また用意できた自己資金の2~3倍が審査を通しやすい金額です。うまくいけば5倍~10倍ぐらいまでいけます。自己資金が少ないと、創業しようとしているのに貯金せず計画性がないと見られ、評価が厳しくなってしまいます。

なお自己資金は、代表者個人の預金通帳を見られます。日本政策金融公庫との面談に臨むためにあわてて誰かから借りて通帳に入金したとしても、容易に見破られてしまいます。6カ月以上前から個人の預金通帳の中に自己資金があるようにしたいです。

自己資金をどうしても用意できないのであれば、親か配偶者から借りる、もしくはもらうことを考えます。この場合、親や配偶者の預金通帳も日本政策金融公庫に見せると、親や配偶者に蓄えがあって支援してくれると見られ、前向きに評価してくれるでしょう。また親族からもらうのであっても、親や配偶者からの場合より評価は低くなりますが何もないよりましです。なお親族から借りるのは、親や配偶者から借りるのと違い今後の取立てが厳しくあることが想像されるのでお勧めできません。

なお法人の場合、自己資金は資本金と同じになります。ただし資本金を見せ金で確保したのであれば借りた人へ返済することにより、預金通帳の動きを見られれば分かってしまい自己資金にならなくなります。また資本金以外に代表者個人から会社へ貸付があれば、それも自己資金として見てくれます。なお創業してから数カ月たち、利益が上がり資金が増えていれば、それも自己資金にできます。

もし日本政策金融公庫と面談する前に会社の設備資金や運転資金で使って自己資金が少なくなっていれば、何にいくら使ったかを伝え、理解してもらってください。

なお生命保険を掛けていて、解約返戻金相当額がたまっている場合。それも自己資金であると日本政策金融公庫にアピールしてください。担当によっては自己資金とみなしてくれる場合があります。なお自己資金とみなしてくれなくても、余分に財産を持っているということで評価の足しにはなるでしょう。余分な財産という意味では将来相続するかもしれない不動産の登記簿など、考えられるものは面談時に持って行きアピールしてください。

2.経験

創業する事業の、今までの経験のことです。新創業融資制度に申し込める要件として「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で次のいずれかに該当する方(現在の企業に継続して6年以上お勤めの方、もしくは現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方)」とありますが、ここまでの長い期間でなくても、経験があればアピールしたいです。今まで経験してきた仕事と、創業する事業。少しでも結びつきがないか考えたいです。

なお追加のアピール資料として、職務経歴書を作って持っていくとよいです。その中で、創業する事業に少しでも結びつきがありそうな職務経験を主張します。また部下がいた経験があるのであればそれも書いた方がよいです。今後、事業が成長することで従業員を入れることになるため、部下がいた経験があれば強いからです。

事業に関係がある資格を保有していれば、それをアピールすると評価が高くなります。またそもそも資格が必要な事業であれば、その資格は経営者自身が持ちたいものです。経営者が資格を持っていず従業員が持っているのであれば、日本政策金融公庫からの評価が下がってしまいます。従業員に万が一辞められてしまえばその仕事が続けられなくなるからです。

なお面談時には過去2年程度の源泉徴収票など、前職の収入が分かる資料を持ってくるよう言われることが多いです。もし年収が高かったのであれば、営業力が高かったなど、アピールできます。

3.個人信用情報

個人信用情報機関には3つあります。全国銀行個人信用情報センター、CIC、日本信用情報機構(JICC)です。日本政策金融公庫が加盟しているのは全国銀行個人信用情報センターとCICですが、特にCICを見てきます。なお個人信用情報機関の間で情報交流を行っているので、3つの個人信用情報機関全てで自分の個人信用情報を取得し、現状を把握しておきたいです。

消費者金融があると審査が厳しくなるので、日本政策金融公庫に融資を申し込む前に全額返済して消しておきたいです。また信用情報に延滞の情報が付いてしまっていたのであれば、日本政策金融公庫が納得しやすい理由を伝えるようにします。なお延滞と言っても、過去の延滞(3~6カ月以上前が望ましい)と現在延滞中とでは、全然違います。日本政策金融公庫に融資を申し込む前には特に気をつけたいです。

日本政策金融公庫の新創業融資は積極的に受けよう

初めは融資を必要ないとして新創業融資を受けず事業を始めてしまい、赤字が出た後になって融資を受けたい、と言い出す方もいます。その場合、創業して数カ月の損益推移を聞かれやすく、赤字であることが分かると日本政策金融公庫は審査を通しにくくなってしまいます。それであれば創業の時に新創業融資を申し込んでおいた方が、融資が出る可能性は高かったです。

創業の時の資金は潤沢であればあるほどよいです。必要ないと思っても、事業がどのように進むか分かりません。また在庫を抱えなければならなかったり売掛金の回収が遅かったりと、資金は意外と早く出て行くものです。資金が尽きようとしているところに日本政策金融公庫に初めて相談に行っても、見透かされてしまいます。創業の時、新創業融資に積極的にチャレンジしたいです。