資金繰りが厳しい中小企業が、資金繰りを改善していくためには、資金繰りが厳しい中小企業の特徴を把握し、自分の会社はそうならないようにすることが大事です。
筆者には多くの中小企業経営者が「資金繰りが厳しい。」「厳しい資金繰りを打開する方法はないのか。今の厳しい状況をしのぐため資金調達の方法を教えてほしい。」と相談に来ます
資金繰りが厳しい中小企業にはどのような特徴があるのか、その特徴が当てはまる確率も合わせて以下に示します。資金繰りが厳しい中小企業の特徴を知り、あなたの会社が当てはまるかどうか考えてみてください。もし当てはまる特徴があれば、その特徴を克服していくことによりあなたの会社の資金繰りは良くなっていきます。
資金繰りが厳しい中小企業に見られる特徴
資金繰りが厳しい中小企業には以下の特徴がよくあります。
- 経営者が会計を知らず決算書を読めない。・・・90%
- 経営者が自社の毎月の損益を把握していない。・・・80%
- 経営計画を立てていない。・・・90%
- 資金繰り管理を行っていない。・・・90%
- 銀行とうまくつきあっていない。・・・50%
ではそれぞれの特徴を詳しく見てみます。
資金繰りが厳しい中小企業の特徴1 経営者が会計を知らず決算書を読めない。
資金繰りが厳しい中小企業の90%にこの特徴があります。経営者が創業者である場合と、2代目3代目などの後継者である場合に、分けて考えてみます。
経営者が創業者である場合
創業者が、なぜ創業したのか。よくある理由は、自分で集客・営業を行う自信があること、自分の技術に自信があること、自分が生みだす商品・サービスに自信があること、です。
一方、会計に熟知していること、経理ができること、このような理由で創業する人はいません。そのため多くの創業者は、会計を知りません。会計を知らなければ決算書は読めません。決算書を読めなければ自分の会社の経営成績が分かりません。自分の会社がどれだけ利益を上げているのか、赤字であればなぜなのか、資産・負債がどのような状態なのか、分かりません。経営者がそんな状態では、そもそも経営はできません。
経営者が2代目3代目などの後継者である場合
先代が会計を知らなかったり、もしくは知っていたとしても後継者教育の中で教えられていなかったりする場合。後を継いだ現経営者は会計を知らず、決算書を読めません。決算書を読めなければ経営はできません。
創業者でも、2代目3代目など後継者でも、このような背景で決算書を読めない経営者は多くいます。筆者が今まで相談を受けてきた資金繰りが厳しい中小企業経営者の90%は、決算書を読めない人でした。中には前月の売上高さえ満足に答えられない経営者もいました。
私「前月の売上はどうでした?」経営者「えーっと・・・税理士に聞いてみます。」このように前月の売上も分からない経営者が、どのように経営を行うのでしょうか。経営者が経営できなければ、会社は簡単に赤字になります。赤字になれば、資金繰りは厳しくなります。
経営者が決算書を読めるようになるにはどうしたらよいのでしょうか。経営者が決算書の読み方を勉強することです。「毎日忙しくて、時間がないよ。」と言い訳するのであれば、お酒を飲みに行くのを1回控えてください。そうすれば飲み屋への往復の移動時間含めて3時間、時間を作ることができます。3時間あれば、決算書の読み方の本を1冊、読むことができます。
経営者が決算書を読めるようになることは、経営を行うためには必須です。読めないのであれば、すぐに勉強してください。
資金繰りが厳しい中小企業の特徴2 経営者が自社の毎月の損益を把握していない。
資金繰りが厳しい中小企業の80%にこの特徴があります。
あなたは、自分の会社の前月の売上・利益がどれだけあるか、分かっていますか。今期合計してどれだけの売上・利益があるのか、分かっていますか。もし分かっていないのであれば、毎月の損益を把握していないことになります。
毎月の損益は、会計ソフトに仕訳入力することで計算できます。仕訳入力とは、事業を行うことによる日々の取引や金銭の動きを記録することです。それを集計したものが損益となります。毎月の損益とは、毎月、会社がどれだけ利益を得た、もしくは赤字を出した、という数値です。経営者が自分の会社の損益を把握していなければ、経営はできません。
資金繰りが厳しい中小企業の特徴3 経営計画を立てていない。
資金繰りが厳しい中小企業の90%にこの特徴があります。
経営計画とは、今後どれぐらい売上・利益を上げていくのかの計画、またその数字を上げるためにどのように行動していくのかの計画です。経営計画は文書にします。
経営計画は次の2つの計画で成り立ちます。
- 年次計画。今後3~10年ぐらい先まで、各年どれだけ売上・利益を上げていくかの計画。
- 月次計画。今後1年、各月どれだけの売上・利益を上げていくかの計画。
上場企業では、全ての企業が経営計画を立てています。計画を立てて経営しているからこそ、会社は成長して上場することができた、とも言えます。
経営計画とは自動車のカーナビのようなものです。カーナビでは、目的地を設定します。そうするとカーナビは、現在地から目的地までの道順を教えてくれます。企業では、経営計画がその役目を果たします。
経営計画を作る過程では、例えば今期は売上高1億5000万円、経常利益1000万円を達成する、それを達成するために売上はどこの得意先でいくら上げる、どの商品でいくら上げる、というように決めていきます。その売上を作るために仕入、外注はどこでいくら発注するか、経費は各項目でいくら使うのかも決めます。それを今期分だけでなく、その後の期の分まで作ったものが、経営計画となります。
経営計画を作るのは他人ではありません。経営者自身です。経営計画を作ることができたら、後はその計画に沿って行動していくだけです。
経営計画を立てていない会社の場合、どこでいくらの売上を上げるか計画がないため、経営者や従業員は思いつきの行動ばかりになってしまいます。ある営業マンが経営者から「今月はこれだけの売上を上げるように。」と示されないとどうなるでしょうか。営業マンは「成り行きでいいや」と思ってしまうかもしれません。そうなると売上は低迷します。
経費もそうです。今月はこの経費はいくらまでという数字がなければ、雑な経費の使い方になりがちです。例えばタクシー代を考えてみます。ちょっと歩くのが面倒だからとタクシーに乗ってしまいます。タクシー代がかさめばかなりの経費になります。この例のように、経費の計画がないと経費の使い放題となりかねません。一つの経費だけでも使い方がゆるむと、全ての経費の使い方がゆるんでしまいます。このような会社は赤字になります。赤字になれば資金繰りは厳しくなります。
資金繰りが厳しい中小企業の特徴4 資金繰り管理を行っていない。
資金繰りが厳しい中小企業の90%にこの特徴があります。
事業を行うと、売上入金が多い日に現金は増え、支払いが集中する日に現金は減ります。月単位で考えても、回収が多い月、支払いが多い月があります。資金繰りには波があります。資金繰りを目に見えるようにするには、資金繰り表を作って管理していくとよいです。それができない中小企業にありがちなのは、次の事態です。
- 現金が不足する直前にその事実を知り、あわてる。
- 現金が多い時に、ムダに現金を流出させてしまう。
1.現金が不足する直前にその事実を知り、あわてる。
月末の3日前になって「月末までに300万円調達したい」と言ってくるような相談が、筆者のところに多く来ます。ひどい場合では当日になって「今日中に現金が200万円ほしい」と言ってくる場合もあります。そのような会社は資金繰り管理が全くできていないのでしょう。行き当たりばったりの資金繰りです。
現金が不足するため銀行から融資を受けたい場合。不足となる日の3カ月前には資金不足を把握し、あらかじめ銀行に相談しておきたいものです。そうすると銀行は、融資をできそうかどうかの見通しを教えてくれます。また銀行が資金不足の直前にあわてて融資審査しなくてよいように、早い時期に審査を行ってくれます。経営者としては、銀行からもし融資を受けられなかった場合の次の手をあらかじめ考えておくことができるでしょう。
2.現金が多い時に、ムダに現金を流出させてしまう。
売掛金の回収が多い日は一時的に現金が増えます。銀行から融資を受けた時も一時的に現金が増えます。一時的に増えた現金は、あくまで一時的なものでしかありません。支払いが多い時期には現金は逆に少なくなります。
一時的に増えた現金を見て、自分の会社は現金を多く持っていると勘違いしてしまう経営者は多くいます。そのような経営者はたまたま現金が多い時に、知人の経営者から頼まれて500万円貸してしまったり、前からやりたいと思っていた事業に800万円使ってしまったり、後でも良かった知人からの借入れの返済に1000万円使ってしまったりします。このように後の資金繰りを何も考えない出金をしてしまいます。そして買掛金や経費、給料の支払いが多い時期に現金が不足し、困った事態に陥ってしまいます。
一時的に増えた現金は、日々の運転資金以外に使ってはいけません。資金繰り表による資金繰り管理を行っていれば、何も考えない出金はしてはいけないと分かります。しかし資金繰り管理を行っていなければ資金繰りの計算ができず、何も考えない出金をしてしまいます。そして後に資金が不足し困った事態になってしまいます。
資金繰りが厳しい中小企業の特徴5 銀行とうまくつきあっていない。
資金繰りが厳しい中小企業の50%にこの特徴があります。
筆者は銀行員時代、中小企業向けの融資営業と融資審査をずっとやっていました。資金繰り改善コンサルタントになってあらためて中小企業の実態を見てみると、銀行とのつきあいがうまくできていない中小企業が多くあると感じます。銀行とうまくつきあっていない中小企業とはどのような企業なのでしょうか。
ある中小企業は、年商1億8000万円、銀行からの借入金は500万円でした。借入金500万円の数字を見ると少ないように見えます。しかしこの会社、税金を1500万円、社会保険料を2000万円、滞納していました。
普通は運転資金を銀行で調達し、税金や社会保険料の滞納は発生させないようにするものです。この会社の社長に聞くと「親の代から代々、銀行からの借入は極力するなと言われており、忠実に守っている。」と言います。しかし、それで税金や社会保険料を滞納させてしまえば本末転倒です。
この会社は設立してから10年、ずっと黒字を続けてきました。黒字の決算書であれば銀行から融資を受けるチャンスはいくらでもあったはずです。しかし銀行から融資を受けず、運転資金や設備資金で必要になった分は税金や社会保険料の支払いを遅らせてまかなう資金繰りを行っていました。このような状態で今から銀行で融資を受けようと思っても、税金や社会保険料の滞納が大きい会社では融資を受けることはできません。結果、資金繰りは厳しいままです。
多くの中小企業では運転資金や設備資金が必要になった場合、自己資金でまかなうことはできません。銀行から融資を受ける必要があります。しかし銀行は、ふだん全くつきあいのない企業には融資を出しづらいものです。そのため融資が必要でない時でも、いつでも融資をスムーズに受けられるよう日頃から銀行とうまくつきあっておきたいものです。
先ほど例に挙げた会社のように、銀行から融資を受けるべき時に、そこに考えが及ばない経営者はいるものです。特に創業して5年以内の中小企業にその傾向が強いです。
例えば、経営者が創業するまでサラリーマンであったとします。サラリーマンが銀行から融資を受けるのは、住宅や車を買う時、もしくは日々の生活でお金が足りない時にカードローンを使う時ぐらいでしょう。そのような人が独立し会社を立ち上げた後、運転資金や設備資金は銀行から融資を受けることでまかなう、という発想になかなかなりづらいものです。その行きつく先は、銀行からの融資は少ないものの、税金や社会保険の滞納が多くあったり、買掛金の未払いが多かったりする状態です。
こうならないためには、運転資金・設備資金は銀行からの融資で調達できないかまず考えること。ぎりぎりの資金繰りとならないために銀行から定期的に融資を受けること。これが重要です。
まとめ 資金繰りが厳しい中小企業の特徴に当てはまらないようになろう
資金繰りが厳しい中小企業によく見られる下記の特徴に当てはまらにようになること。そうなれば、あなたの会社は資金繰りが厳しい状態になりにくくなります。
資金繰りが厳しい中小企業の特徴
- 経営者が会計を知らず決算書を読めない。
- 経営者が自社の毎月の損益を把握していない。
- 経営計画を立てていない。
- 資金繰り管理を行っていない。
- 銀行とうまくつきあっていない。