無借金経営は本当に良いことなのか

会社はなぜ倒産するのか。それは、資金がなくなってしまうからです。あなたの会社が資金不足に陥らないために、資金繰り表を使って資金繰り管理をしっかり行い、常に豊富な現金預金を保有しておくことが重要です。

現金預金をどれぐらい保有していると、会社は安全と言える水準なのでしょうか。月商から見て、最低1カ月分、理想は3カ月分の現金預金を保有することが、安全な水準と言えます。例えば年商3億円の会社であれば、12カ月で割って月商2500万円、月商の1カ月分、2500万円の現金預金を常に保有しておきたいものです。

売掛金など回収が多い月は会社に多くの現金預金が残り、回収が少なく買掛金や経費など支払いが多い月は現金預金が少なくなります。また月の中でも、月末など入金が集中する日は現金預金が多くなり、逆に支払いが集中する日は現金預金が少なくなります。現金預金が一月の中、また一年の中で最も少なくなる日を基準に、月商の1カ月分の現金預金を最低、持っておきたいです。

では、保有する現金預金の量をどうやってコントロールするとよいのでしょうか。考えるべきことは、金融機関からの借入れです。金融機関から借入れすることで、多くの現金預金を持つようにします。しかし「無借金経営」という考え方があります。借入金が0である経営が、良い経営という考え方です。

会社にとって最も良いのは、現金預金を豊富に保有し、かつ無借金であることです。しかし中には、無借金経営を目指したばっかりに、現金預金が少なくなってしまっている会社もあります。例えば次のA社とB社、どちらが安全な経営と言えるでしょうか。月商2000万円の会社として考えてください。

  現金預金 借入金
A社 10万円 3010万円
B社 2010万円 5010万円

どちらの会社も、借入金から現金預金を引くと3000万円です。違いは、B社はA社より2000万円多く借りていて、また現金預金を2000万円多く保有しています。A社は少ない現金預金の中、ぎりぎりの資金繰りで危なっかしい経営です。

しかし現実は、A社のような資金繰りを行っている会社は多いものです。ここでA社が金融機関に融資を申し込み、すぐに受けられたらよいのですが、もし審査に落ちて融資を断られたら、A社は資金不足に陥ってしまいます。

現金預金が月商の1カ月分は最低、理想は3カ月分となるよう、融資の返済が進む都度、新たな借入れを起こすべきです。B社では現金預金の量を意識した資金繰りを行えています。多くの現金預金を保有するB社の方が安全な経営です。借入金が多くなっても、それよりも現金預金を多く持ち、安全な経営を第一に考えるべきです。

借入金を減らしたい場合。事業で利益を稼ぐことで手元に多くの現金預金が残るようにし、その範囲内で借入金の返済を進めていけば、現金預金を減らさずに返済を進められます。無借金経営を目指すのなら、現金預金を最低1カ月分、理想は3カ月分、常に保有した上で、事業で稼ぐ現金預金の範囲内で借入金の返済を進めていくようにします。

現金預金が少ないのに無借金経営を目指し借入金をまとめて返済してはいけない

経営者の中には、決められた返済日に返済していくだけでは飽き足らず、現金預金が多くある時期に借入金をまとめて返済する人もいます。現金預金が月商の4カ月分以上あった上で一部を返済するのならよいです。しかし現金預金が月商の1~2カ月分しかなく、それをまとめて借入金の返済に充てるのは大変危険です。

金融機関に融資の返済をすることにエネルギーはいりません。払戻請求書を書けばよいだけです。一方、融資を受けることはとてもエネルギーがいります。多くの書類を提出し、金融機関と交渉しなければなりません。そもそも融資審査が通らないかもしれません。借入金をまとめて返済しても、将来、金融機関に頼めば再び融資を受けられるだろうと安易に考えてはいけません。金融機関の態度が変わることはよくあります。そのきっかけには、次のようなことがあります。

金融機関の態度が変わるきっかけの例

  • 決算書の内容が悪くなった。
  • 売掛先が倒産して貸倒れが起こり、金融機関はそれを知った。
  • 取引先のうち一社が反社会的勢力であることが発覚した。
  • 経営者や役員が刑事事件を起こした。
  • 経営者が忘れてしまっていた個人の税金の滞納があり、税務署が経営者個人の預金口座を差し押えた。その口座は会社が融資を受けている金融機関の口座であった。

頼めばいつでも融資を出してくれていた金融機関が、いきなり融資をしてくれなくなることは突然起こるものです。

経営者は無借金経営を目指して借入金の返済を急ぐのではなく、現金預金を多く保有することを意識するべきです。借入金がいくら多くあっても、現金預金が多くあれば会社はつぶれません。一方、借入金が少なくても、現金預金が足りなくなってしまえば会社はつぶれます。