最近は少なくなってきましたが、今でも、少し儲かると自社ビルを手に入れたがる経営者は多いものです。自社ビルを手に入れることで、会社の利益が上がるなどプラスの効果がもたらされるとよいのですが、ほとんどは、経営者の自己満足と、外部に対しての見栄にしかなりません。
無駄な自社ビルを手に入れた会社の多くは資金繰りが厳しくなる
銀行は、企業に自社ビルを建てたり購入したりしてほしいものです。自社ビルを手に入れるには大きな金額が必要であるため、銀行から借入れして自社ビルを手に入れるのが普通です。銀行は、大きな融資を行うチャンスです。積極的な銀行は、自社ビルの候補をわざわざ紹介して、融資に結び付けようとします。
自社ビルは、それ自体で利益を生み出すものではありません。本社の機能は、賃借のオフィスで十分に果たせます。わざわざ自社ビルを手に入れる必要はありません。
自社ビルを手に入れる場合、そのための資金を銀行からの借入れで確保するのが普通です。また借入金額は大きくなります。業績が良い時は毎月なんとか遅れずに返済できても、業績が悪化し、返済と利息の負担が重くのしかかっている企業はよくあるものです。
また小売店や飲食店でも、店舗は自社で購入するのではなく、賃貸で十分です。小売店や飲食店では立地が売上を左右する大きな要因です。その店舗の売上が悪ければ撤退を考えなければなりません。しかし店舗を自社で所有すると身動きがとりづらくなります。そして大きな借入金による返済と利息の負担が重くのしかかり、資金繰りが厳しくなります。
自社ビルなど無駄な資産を抱えることが会社の資金繰りを厳しくする
自社が所有している資産を見て、それらが全て、会社が利益を上げるために生かされているか、考えてみてください。貸借対照表に計上されている資産を見るとよいです。
無駄な資産が多い会社は、図体ばかり大きくて利益が生みだされない状態です。資産の中でもお金をたくさん使う資産は、そこから大きな利益を生み出すことができなければ、無駄な資産です。自社所有のビルや店舗は、不動産賃貸業でもないかぎり、ほとんどの企業では所有することで大きな負担がのしかかってくるものです。
賃借であれば、毎月の賃料を支払えばよいですし、会社の状況の変化によって移転できます。会社が拡大していけば広いオフィスに移転できますし、業績が悪化したため家賃を削減したければ、賃料が安いところに移転できます。店舗の場合、賃借であれば店舗の業績が良くない時に撤退という選択肢をとることができます。
銀行から融資を受ける場合、その資金は有効に使わなければなりません。有効に使うということは、融資を受けた資金が多くの利益を生み出すことに使われる、ということです。自社所有のビルや店舗を手に入れるには、大きな金額の借入金が必要ですが、それが利益を生み出すものでなければ、その借入金が重荷になります。ここで言う重荷とは、
- 毎月の返済の負担。
- 利息支払いの負担。
- 借入金が増加することによる、資金調達余力の低下。
です。銀行から大きな融資を受けると、返済と利息の負担が大きくなるのは当然として、会社の借入金の総額が大きくなるため、運転資金など新たな融資を受けるのが今後、難しくなってきます。これらの重荷を抱えてまで、ビルや店舗を手に入れる必要があるのでしょうか。
無駄な自社ビルを手に入れて資金繰りが厳しくなった会社の事例
ある会社の事例を紹介します。その会社の年商は1億5000万円、毎年利益は500万円ぐらい出ていました。しかし知人から、その知人が所有している5階建てのビルと土地を1億2000万円で買わないかと誘われ、買ってしまいました。
銀行から1億2000万円を借入れして資金を調達しました。さらにその経営者は別の知人に、画期的なソフトウェアを開発するから投資しないかと言われ、1億円を銀行から借りてそれにも投資してしまいました。
その会社は、他の運転資金の借入れも合わせて借入金総額2億5000万円、毎月の返済が300万円ほどありました。利益が年間500万円出ていても、年間300万円×12カ月=3600万円の返済はできないので、銀行から新たな融資を受けていく必要があります。しかし年商の倍近くの借入れがあり、借入過多としてどこの銀行も新たな融資を行ってくれません。リスケジュール(返済減額・返済猶予)を行ってくれるよう銀行に交渉し、毎月の元金返済は0となりましたので資金繰りは回るようになりましたが、経営者が無駄な自社ビルに資金を使ってしまった例です。
この事例の会社は、自社ビルを購入することでどれだけの利益が増えたのでしょうか。今まで賃借していたオフィスが自社ビルに移っただけで、自社ビルを購入することで利益を増やすことができたわけではありません。賃借の時は毎月、賃借料を支払っていたのでそれがなくなりましたが、一方、借入れにより利息と固定資産税、ビルを管理・修繕するための費用が必要となり、何より返済負担が重くなってしまいました。
またソフトウェアを1億円で開発しましたが、それをリリースしてから3年、いまだにそのソフトウェアがもたらす年間売上は300万円程度です。そのソフトウェアの販売や維持にかかる経費を引いたらほとんど利益が出ません。一方、1億円を借りたことによる返済と利息負担が重すぎます。
このように、利益を生み出すことのない無駄な自社ビルは、会社の資金繰りを厳しくさせます。
自社ビルを持つと銀行からの信用が上がるのか
自社ビルを持つと銀行からの信用が高くなり新たな融資を受けやすくなる、という話を聞くことがあります。しかし、そんなこと全くないです。自社ビルを購入する時それを担保にお金を借りるので、その自社ビルを他の借入れの担保にはしづらいです。また自社ビルを銀行からの借入れで購入することにより、借入金が大きくなり、財務内容が悪くなるので、銀行から新たな借入れがしづらくなります。
賃料を支払うのがもったいないから自社ビルを持つという考えはどうか
これもよく聞く話です。今まで事務所や店舗などを賃借して賃料を支払っていた会社が、自社ビルを持つと賃料がなくなるからそちらの方が得、という話です。しかし自社ビルを持つことは、固定資産税や、自社ビルを維持するための管理費・修繕費を自社で負担しなければなりません。また自社ビルは銀行から借入れして手に入れるのが普通であるため、借入金の利息負担が大きくなります。
そして自社ビルを持つことにより会社の利益が上がるわけでなければ、借入金の毎月の返済がそのまま資金繰り悪化要因になります。
すでに無駄な自社ビルを手に入れている会社であればどうするか
すでに自社ビルを手に入れていて、一方で借入金も大きく、返済や利息の負担が大きくなっている。そのような会社は、自社ビルを売却して現金に代えたり資金に余裕があれば融資の返済にあてたりするなどスリム化を考え、財務内容や資金繰りはどうなるか、シミュレーションしたいものです。