社員の横領は、中小企業によくあることです。中小企業は大企業と違い、内部管理体制はゆるくなりやすいです。また中小企業は、大企業に比べて給料水準は低くなり、そして優秀な人を採用しにくいです。このような中、中小企業はどうしても社員のモラルが低くなりがちです。

モラルに欠ける社員が会社の中で起こすことの一つが横領です。横領とは、会社の財産を自分のものにすることです。横領は、経営者が気づかないだけで、多くの会社で起こっています。横領の事例を2つご紹介します。

営業部長と経理部長が結託して1年半で1500万円を横領したケース

食品をネットで販売する事業を行っている会社です。筆者がコンサルティングに入り、初回のミーティングを経営者と経理部長とで行いました。会計ソフトの中身を見ながら、過去に使った経費を一つ一つ、内容を経営者に聞いていきました。

外注費の中で、毎月100万円、特定の外注先に支払っていました。これはなにかと経営者にたずねたところ、知らない、とのことでした。知らない外注費が毎月100万円支払われていたので、あせった経営者は経理部長を問い詰めました。経理部長は答えに窮し、白状しました。毎月100万円を支払っていた外注先は、営業部長の妻の名前に個人事業主として屋号を付けただけのものでした。請求書も用意し、経理部長と営業部長が結託して会社のお金を横領していました。

1年半もの長い間、横領されていたことに経営者は気づいていませんでした。その間に1500万円も横領されていました。日常、支払先への振込は全て経理部長が行っていたのも横領に気づけなかった要因の一つです。筆者が会計ソフトの中身をチェックしなければ、さらに長い間、横領されていたことでしょう。

その会社は5年もの間、赤字が続き、資金繰りが厳しい状態でした。銀行から融資を多く受けられていたので、会社は継続できていました。さらに横領されていれば、相当、資金繰りは苦しかったことでしょう。経営者はお金の管理や経理を経理部長に任せきりにしていたため、経理部長と営業部長で結託され、簡単に会社のお金を横領することができた事例です。

新事業で役員と社員を海外に行かせ2年で3000万円横領されたケース

運輸業の会社が、新事業で、アジアのある国で魚の養殖事業を立ち上げました。その会社の専務が養殖事業の話を社長に持ち込み、社長はその専務の話を信じて、専務に任せることにしました。専務は社員5人も一緒に行かせてほしいと頼み、合計6名が海外に常駐し、養殖事業を立ち上げました。

専務は社長に「3年後には30億円の売上になりますよ。」と言っていました。社長はその言葉を信じてしまいました。新事業の立ち上げでほとんど売上がない時でも、6名に給料と住居費を毎月支払い、さらに専務には新事業の経費として毎月200万円を専務個人の通帳に振り込んでいました。

しかし事業を立ち上げて2年、いつまでたっても、売上は月数十万円しか上がりません。社長は専務に、いつになったら事業が軌道に乗るのか聞くと「あと1年待ってください。今、複数の商談が進んでいます。」と言うばかりです。はじめは専務の話を信じていた社長も、そこから全く売上が上がらないことで、専務を問い詰めました。そうしたところ、専務は会社を辞めてしまいました。養殖事業も継続できなくなりました。

後から調べたところ、専務に渡していた事業経費、月200万円のうち、実際に養殖事業に使われていたのは50万円ぐらいで、残り150万円はどこに行ったか分かりませんでした。専務が自分のポケットに入れていたとしか考えられません。

その社長は毎月200万円を専務に渡すだけで、その後、経費を何に使ったのかの報告をさせていませんでした。専務はおそらく、お金にずぼらな社長の性格を見抜いていたのでしょう。会社から毎月200万円を出させて、その多くを横領していました。もしかしたら養殖事業も、専務のでっち上げ話かもしれません。

社員に横領される経営者に見られる特徴

このように社員に横領される危険が高い経営者には、次のような特徴が見られます。

  • 経営者が会計に疎く、決算書、試算表、総勘定元帳などの見方が分からず不正が見抜けない。
  • お金の管理を社員に丸投げしていて、社員が自由にお金を動かせる状況になってしまっている。
  • 経営者が社員を信じ切ってしまっている。自分の会社の社員だから悪いことはしないだろうと思い込んでいる。

横領された資金は取り戻せるのか

横領された資金を取り戻すことは難しいです。横領されたら、すぐに使い込まれてしまうことが多いです。また使い込まず貯金していた場合でも、その社員から使い込んで手元にないと言われてしまうと、追及するのは難しいでしょう。

また警察に被害届を出しても、事件としてなかなか動いてくれないものです。横領は多くの会社で起こっていることで、警察には多くの被害が持ち込まれ、一つ一つ対応できないのです。

結局、横領した社員に長い時間をかけて返済させることを約束させ、少しずつ返済させていくぐらいしかありません。

これらの事例のように、横領は特別なことではなく、中小企業の日常によくあることです。真面目な社員でも、何かきっかけがあると「ばれなければいいや。」「後で返せばいいや。」と思い、魔が差して横領してしまうものです。自分の会社の社員だから大丈夫だろう、と経営者は思い込んではなりません。

社員に横領されると、資金繰りは当然、厳しくなります。そして横領が分かった後の、経営者がこうむる精神的ダメージは大きいです。今まで信頼していた社員が、自分を裏切ったのですから。社員が横領しないよう、横領できない体制を考えて構築し、そして経営者自ら目を光らせなければなりません。