本業で利益を上げられていないのに、新事業に手を出してしまう経営者がいます。

経営者のところには、多くの人が儲け話を持ってくるものです。しかし、儲け話が1~2年後に実際に儲けにつながるケースはなかなかありません。なぜこんなに多くの儲け話が経営者のところに持ち込まれて、そしてことごとく実を結ばないのでしょうか。

儲け話を持ってくる人は、自らその事業を行えば自分が儲かるはずです。しかし、なぜ自分でやろうとはしないのでしょうか。

儲け話を持ってくるケースには、次の2つがあります。1.儲け話を持ってくる人が、資金を持っていないケース。2.儲け話を持ってくる人が儲かるだけで、儲け話に乗っかった経営者は損するだけというケース、です。

1.儲け話を持ってくる人が、資金を持っていないケース

この場合、儲け話に乗っかった経営者に資金を出させて、儲け話を持ってきた人が自ら事業を行います。

ある機械部品卸A社の事例です。A社の社長Bは、知人からCを紹介されました。CはB社長に「自分は人材派遣ビジネスのノウハウを持っている。A社は今、売上が落ちていると聞いている。売上を大きくしたいのであれば、自分を役員で採用してほしい。A社の新事業として人材派遣事業を立ち上げて、売上を大きくするから。」と持ちかけました。

Cの話のうまさにすっかり信用してしまったB社長は、Cを役員として入社させました。そしてCは、人材派遣事業を運営していくため8名採用してほしいと言ってきました。その8名、実はCの親族と友人ばかりでしたが、B社長はそのことを知りませんでした。B社長はA社の第二の柱として人材派遣事業が軌道に乗ることを期待しました。Cは、人材派遣事業だけで1年後は月商1000万円になるとB社長に言っていました。

しかし1年たっても、人材派遣事業の売上は月150万円にしかならず、1000万円にはほど遠い状態でした。一方Cの率いる人材派遣部門の人件費は、Cと、Cの連れてきた8名の従業員とで大きな負担になっています。またCと8名の給料を高くすることをB社長が約束して入社させていることも、人件費の負担を大きくさせています。

B社長はCに「いつになったら売上が1000万円になるんだ」と問いかけます。そう言われるたびにCは「800万円の見込み案件を今、交渉中である。人材派遣事業を今やめてしまえば、せっかく軌道に乗る前に全てが水の泡になってしまう。もう少し辛抱してほしい。」と言います。

しかし、それから2年後でも月商250万円にしかなりませんでした。人材派遣事業を始めてから3年、やっとB社長は人材派遣事業の撤退を決断しました。それまでの人材派遣事業の累積赤字は8000万円にもなり、その赤字を補うための借入金は大きく膨らみ、決算書の貸借対照表の純資産は大きくマイナス、つまり大きく債務超過となってしまいました。

この事例のCは、本当に人材派遣事業でA社を儲けさせるつもりだったのか、今となっては分かりません。ただその後、Cは別の会社に親族や友人の8名を引き連れて入社し、そこでも人材派遣事業を立ち上げているという噂を聞きました。Cとその親族・友人は、企業に入り込んで給料をむしり取ろうとするだけの集団にすぎないのかもしれません。

このB社長が失敗した原因を考えてみます。自分は人材派遣事業に一切関わろうとせず、Cに全てを任してしまったこと。親族や友人を多数入社させようとするなどCはむちゃな要求をしているのに、口がうまいCを信頼し、言うことをいろいろ聞いてしまったこと。本業の立て直しに力を入れようとせず、新事業が軌道に乗れば会社は良くなると新事業に依存してしまったこと。このような原因が考えられます。

2.儲け話を持ってくる人が儲かるだけで、儲け話に乗っかった経営者は損するだけというケース

「私の会社は画期的な新商品を開発した。これは3年後、50億円規模になる事業である。だから私の会社に投資しないか。」というような話を聞いたことはないでしょうか。そのような話を聞き投資してしまい、投資した資金が返ってこなくなるケースをよく見ます。

投資を集めた会社は、集めた資金を事業の成長のために使ったものの、結局、成長しなかったのかもしれません。それならまだよいのですが、事業の成長のためには使わず別のことに使った、というケースもよくあります。

ある飲食店チェーンが、海外展開のための出資者募集として、お金を数億円集めたことがありました。しかしその飲食店チェーンは2年後、倒産してしまいました。後になって考えると、集めた資金は海外展開のためには使われず、その会社の資金繰りに使われた可能性が高いです。もしくはその飲食店チェーンの経営者が、集めた資金を個人に移し、お金を隠したのかもしれません。

この事例のような、うちの会社の事業は将来有望であると言って投資を集める話は、投資を集めた会社がどのように資金を使うのか、実際に確認することはなかなか難しいです。当初の説明どおり事業を成長させるために使ったのか。それとも資金繰りが苦しく、事業を成長させるためと言いながら実際は自社の資金繰りをまわすことに使ったのか。

筆者は資金繰りが厳しい会社の経営者から相談を受けることが多くあります。その中で「うちの会社は資金繰りが苦しく、銀行からお金も借りられないから、この事業プランで資金を集めようと思うがどうか。」という相談もよくあります。投資を集めようとする会社は、実は自社の資金繰りに使うことが真の目的であることは多いのです。

新事業に手を出して資金繰りを厳しくさせてしまうより本業を強くしよう

いずれにせよ、このような儲け話でうまく行ったケースを見ることはほとんどありません。ほとんどの場合、投資した資金は返ってこず、会社の資金繰りを厳しくする原因の一つとなります。また銀行は、新事業に投資するための資金を融資することは、本業が儲かっている会社でないかぎりなかなかありません。まずは本業で利益を上げるよう、銀行は経営者に言うだけです。

本業で儲かっていて、次の収益源を作るために新事業に投資するのならよいです。しかし本業が儲かっていないのなら、余計な新事業に手を出さず、まずは本業で儲かるようにするべきです。