次のグラフは、中小企業白書(2016年版)の291ページ「第2-5-16図 企業規模別に見た無借金企業の割合」です。

このグラフを見ると、無借金企業である中小企業事業は2014年で35.4%ということが分かります。そこから、100%-35.4%=64.6%と、3分の2近くの中小企業は金融機関からの融資があることが計算できます。

なおグラフを見ると、昔に比べたら年々、無借金企業が増えてきていることも分かります。しかしいまだに3分の2近くの中小企業は金融機関からの融資があるのが実情です。このように多くの中小企業では金融機関からの融資が必要なのです。

金融機関からの融資が中小企業はなぜ必要なのか。次の3つの理由があります。

  1. 事業のスピードを速めるため
  2. あらゆる立替に対応するため
  3. 万が一に備えるため

金融機関からの融資がなぜ必要か 1.事業のスピードを速めるため

会社が事業を行うにあたって、資金が必要です。会社にせず個人事業主のまま事業を行う場合でも同様です。

会社勤めしている個人が事業を起こそうとする時を考えてください。この個人は創業者として、事業を起こす準備として、会社勤めして給料を得て貯金していきます。創業時に1000万円を事業資金として確保したい場合。1000万円の貯金ができるまでは長い年月がかかります。その間に創業者は年を取ってしまいます。創業のためのビジネスアイデアが年月を経ることで古いものとなったり、他人に先を越されてしまったりするかもしれません。

創業者は毎日がんばって働き、300万円の貯金ができました。そろそろ創業したいですが、事業資金は1000万円必要ですのであと700万円足りません。そこで金融機関から融資を700万円受けられたら、自己資金と合わせ、1000万円確保できるので創業できます。このように融資は、創業者が事業資金を全額自己資金として確保できていなくても創業できるよう、スピードを速めてくれます。

既に事業を何年も行っている会社でも同じです。顧客を増やして売上を増やしていきたい、新しい地域に進出したい、新たな事業を立ち上げたい。このような時も資金が貯まるまで待つのではなく、金融機関から融資を受けることで、事業のスピードを速められます。

金融機関からの融資がなぜ必要か。1つ目の理由は、事業のスピードを速めるため、です。

金融機関からの融資がなぜ必要か 2.あらゆる立替に対応するため

事業を実際に行ってみると、売上を順調に上げていっても、なかなか資金は増えていかないことが分かります。

売上を上げてもすぐに入金とならず売掛金となり、1カ月の売上を月末で締めて翌月に入金というように、売上を上げてもなかなか現金として入金されないことは多いものです。飲食業や小売業でさえも、今ではクレジットカードや電子マネーでお客さんから支払われることが増え、それが現金として入金されるまで時間がかかります。これらは、売上が上がっても、現金で入金となるまでに会社が一時的に資金を立て替えている状態と言えます。

また建設業や製造業であれば原材料、小売業であれば商品を仕入れなければ事業はできません。原材料や商品を仕入れるために先に支払いが発生し、後で売上が上がり入金となるのが普通です。仕入れてから売上が上がるまでの間、会社は原材料や商品を在庫として保有します。これも、会社が一時的に資金を立て替えている状態です。

このように、事業では現金を立て替えている状態が多く発生します。その間は資金が少なくなるため、ほっておけば会社の資金は回りません。金融機関からの融資が必要です。

金融機関からの融資がなぜ必要か。2つ目の理由は、あらゆる立替に対応するため、です。

金融機関からの融資がなぜ必要か 3.万が一に備えるため

2020年に、新型コロナウィルスで多くの会社で事業がストップし、売上が減少し資金繰りに苦しんだことは記憶に新しいです。資金に行き詰まり倒産となった会社も多くありました。このように、事業には不測の事態が起こることがあります。

新型コロナウィルスのような外的要因だけでなく、会社の内部で不測の事態が起こることもあります。大企業が自社の事業に進出してきた、一番の得意先から取引を停止された、社内で大量に退職が発生したなど。

このような時、会社に資金が少ないと、資金繰りは早晩、行き詰まってしまいます。その時、金融機関に融資を申込んでも、融資審査が必ず通るとはかぎりません。ふだんから金融機関からの融資を多く受けておき、多くの資金を持っておけば、会社に不測の事態が起こっても会社はゆるぎません。

金融機関からの融資がなぜ必要か。3つ目の理由は、万が一に備えるため、です。

金融機関からの融資がなぜ必要なのか。理由の中に入らないこと

金融機関からの融資が中小企業はなぜ必要なのか、3つの理由を述べました。

  1. 事業のスピードを速めるため
  2. あらゆる立替に対応するため
  3. 万が一に備えるため

なお、金融機関からの融資がなぜ必要なのか理由の中に、赤字を補てんするため、という理由はありません。会社の事業が赤字に陥った時、経営者がやるべきことは事業を黒字に回復させることであり、金融機関から融資を受けることではありません。実際は赤字となり資金が少なくなるのを融資で補てんすることはよく行われます。しかしそれは融資の本質としては外れており、経営者はあくまで事業を黒字に回復させるのを怠ってはなりません。

経営者はこれら3つの理由を頭に入れて、金融機関との付き合いを考えていきたいものです。