あなたの会社は融資を受けている銀行から取引方針を決められている
銀行では融資先企業に、どのようなスタンスで融資をしていくか「取引方針」を決めています。
取引方針は、債務者区分や信用格付と連動しています。
銀行によって債務者区分や信用格付、取引方針のシステムは異なりますが、次のようなイメージです。
債務者区分 | 信用格付(例) | 取引方針 |
正常先 | 1・2格 | A.積極推進方針 |
3・4格 | B.推進方針 | |
5・6格 | C.現状維持方針 | |
その他要注意先 | 7格 | |
8格 | D.消極方針 | |
要管理先 | 9格 | |
破綻懸念先 | 10格 | E.取引解消方針 |
実質破綻先 | 11格 | |
破綻先 | 12格 |
この例の銀行では、取引方針は5段階に決められています。債務者区分がまず決まり、それに連動して信用格付が決まり、取引方針が決まります。
融資の受けやすさは銀行から決められる取引方針により大きく左右される
企業は新たな決算書ができ上がったら、融資を受けている銀行から決算書の提出を求められます。決算書を銀行で分析し新たな信用格付が付けられ、新たな取引方針が決まります。取引方針が決まったら、次の決算ができて銀行に提出するまでに取引方針が変わることはまれです。融資を受けているそれぞれの銀行が、自社に対しどのような取引方針なのか把握しておくと、会社の今後の資金繰りや資金調達体制を考えるにあたって役に立ちます。
取引方針の例をもとに、その銀行からの融資がどうなっていくかを見ていきます。
A.積極推進方針
A.積極推進方針は、積極的に融資を売り込んでいく方針です。銀行はこの方針の会社に、融資量を増やしていくことをねらいます。そのために融資の提案を積極的に行います。積極的なので、次のような提案も行います。
- プロパー融資(信用保証協会保証付でない融資。もし貸倒れとなった場合、銀行が100%損失を被る。)の提案。
- 大きい金額の融資の提案。
- 長い返済期間(3年以上)の融資の提案。
- 低い金利(0%台~1%台)の融資の提案。
- 社長が連帯保証人とならない無保証人の融資の提案。
融資を増やしたく、支店長がトップセールスしてくることもあります。また銀行は融資を増やしたいために、金利を一気に低くするなどの提案で他の銀行の融資の借換え提案をしてくることも多いです。
B.推進方針
B.推進方針は、Aほどではないが融資を売り込んでいく方針です。Aほとではないですが、融資量を増やしていくことをねらいます。金額や返済期間、金利はA.積極推進方針の場合ほど無理はしないが良い条件で提案していくイメージです。
A.積極推進方針とB.推進方針の違いについて、一例を挙げます。ある会社に、自分の銀行とともに、競合の他の銀行も融資を売り込んできている場合。A.積極推進方針でであれば金利を一気に低く提示してでも融資を売り込みますが、B.推進方針であれば無理はしません。金利を一気に低くするなど銀行の収益を度外視してでも積極的に融資をしていき融資量を増やしていくか、そこまで無理はしないか、の違いがあります。
C.現状維持方針
C.現状維持方針とはどのような方針か。融資は返済が進むにつれ残高が減少していくものですが、減少した分を埋めるぐらいには融資をしていこうという方針です。
ここ3年ぐらいの、毎月の融資残高の推移を銀行では確認しています。プロパー融資と信用保証協会保証付融資とでそれぞれ、ここ3年ぐらいでピーク(一番融資量が多い時)の融資残高から返済が進み融資残高が減ってきている中、新たな融資を行うことで融資残高がそのピークに達するぐらいの融資を行います。
D.消極方針
D.消極方針の場合、銀行はその会社に対し新たな融資を行わないか、少額の融資しか行いません。また、今まではプロパー融資も行っていたのに新たな融資は信用保証協会保証付融資しか行わない、新たな融資では金利を今までの融資に比べ高く設定する、返済期間が1年以内の短期融資しか行わなくなる、などもD.消極方針の特徴です。
D.消極方針であれば、銀行からの融資を十分に受け続けていくことが難しくなります。D.消極方針の会社は、決算書の損益計算書の営業利益や経常利益が赤字となっていたり、貸借対照表の純資産がマイナス(債務超過)となっていたりすることが多いです。経営改善計画書を作成しどう業績や財務内容を良くするかを銀行に伝えるなど、銀行へ経営改善努力を見せ、銀行に評価してもらい少しでも融資が受けられるようにしたいものです。
E.取引解消方針
E.取引解消方針の場合、銀行は今ある融資の返済を求めてきます。E.取引解消方針となっている会社は、銀行からの融資をリスケジュール、つまり返済の減額・猶予を行っていることが普通です。新たな融資は行われず、不動産や有価証券の売却を行ったり、利益を上げることなどで現金ができたら返済に回し借入金を減らすことを銀行は求めてきます。
融資を受けている銀行がどのような取引方針かを知ることのメリット
このように、銀行は融資先企業に「取引方針」を決めています。あなたの会社が融資を受けている銀行がそれぞれ、自社への取引方針をどうしているか把握することで、次の効果があります。
- それぞれの銀行から融資がどれだけ期待できるのかを予測することで、今後1年程度の資金繰りと資金調達計画を考えられる。
- 積極的に融資を行う方針の銀行があれば、融資を好条件(プロパー融資・金利・返済期間・無保証人など)にしていくことを考えられる。
- 消極的な方針の銀行があれば、経営改善計画書の提出などにより、銀行から自社の経営改善努力を理解してもらい自社への評価を少しでも高め、融資を少しでも受けられるようにしていく動きができる。