銀行から付けられている債務者区分とは

債務者区分とは、銀行が融資先企業ごとに付けている区分です。会社の財務状況、収益力と、融資の返済状況により決められます。融資先企業の債務者区分と、保全状況(会社が返済できなくなった時、信用保証協会による代位弁済・担保の売却などで銀行がいくら回収できるか)により、銀行の企業に対する融資に対し、銀行は貸倒引当金を計上し、銀行の決算書を作っています。

債務者区分は1999年に制定された「金融検査マニュアル」に記載されたもので、そのマニュアルに基づいて銀行は融資先企業の債務者区分を付け、債務者区分をもとに、回収できないリスクで融資を分類し、貸倒引当金を計上していました。

金融検査マニュアルは、バブル崩壊に伴う銀行での不良債権の増加により銀行の経営が悪化したことを受け作られたものです。しかしマニュアルが作られてから20年が経過し、不良債権の問題は落ち着いてきました。また金融検査マニュアルの影響で、銀行が融資審査で企業の事業内容よりも担保や保証の有無を重視するようになったり、企業の事業内容の理解・目利き力が低下したりという問題点も指摘されていました。

そこで2019年12月に金融検査マニュアルは廃止されました。しかし今までの銀行の実務は否定されず、現在の債務者区分の運用を出発点とし、各銀行の方針により運用を任されるようになりました。

今後も債務者区分の運用は各銀行、しばらく続くと思われます。債務者区分について解説します。

銀行から付けられている債務者区分はこのようになっている

債務者区分名と、その内容は次のとおりです。

区分 内容
正常先 業績が良好で、財務内容にも問題がない優良な融資先
要注意先 貸出条件に問題がある、債務の履行状況に問題がある、業況が低調ないし不安定、財務内容に問題があるなど、今後の管理に注意が必要な融資先
要管理先 要注意先のうち、債務の履行を3カ月以上延滞、または貸出条件の緩和を受けた融資先
破綻懸念先 経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、再建計画の進捗状況が芳しくなく、今後経営破綻に陥る可能性が大きい融資先
実質破綻先 法的・形式的な経営破綻には陥っていないが、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがないなど、実質的に経営破綻に陥っている融資先
破綻先 法的・形式的な経営破綻に陥っている融資先

債務者区分は「破綻先」に近づくほど、悪い区分となります。それぞれの債務者区分を具体的に見ていきます。

1.正常先

業績が良好であり、財務内容に特段の問題もなく、延滞もない会社のことです。

2.要注意先

要注意先は、その他要注意先と、要管理先、に分けられます。

要注意先とは、業績が不調で財務内容に問題がある、もしくは融資に延滞がある会社のことです。要注意先の中でも、融資の全部または一部が要管理債権である会社は要管理先となります。

要管理債権とは、3カ月以上延滞となっている融資、もしくは貸出条件緩和債権である融資のことです。貸出条件緩和債権とは、債務者の経営再建または支援を図ることを目的として、銀行が元金の返済猶予、金利の減額や免除、利息の支払猶予、債権放棄などを行った融資です。

要は、3カ月以上の延滞、もしくは貸出条件緩和債権にあてはまる融資がある会社は要注意先の中の要管理先となり、そうではないが業績が不調で財務内容に問題がある、もしくは融資に延滞がある会社はその他要注意先となります。

3.破綻懸念先

経営難にあり、改善の状況になく、長期延滞の融資がある会社です。

4.実質破綻先

法的・形式的には経営破綻の事実は発生していないが、自主廃業により営業所を廃止しているなど、実質的に営業を行っていない会社です。

5.破綻先

破産などの法的手続きが開始されていたり、手形の不渡りにより取引停止処分となっている会社です。

銀行はあなたの会社の債務者区分をどのように決めるか

銀行は融資先企業に債務者区分を付けるにあたり、銀行内部でマニュアルを作成しており、それに基づき査定しています。

査定の方法は、会社の業績や財務状況と、融資の返済状況を見るものであり、損益計算書の経常利益が赤字になるほど、また赤字の年数が連続するほど悪い債務者区分となりやすいです。また貸借対照表の純資産がマイナスであればあるほど悪い債務者区分となりやすいです。なお純資産は価値のない資産を除いた実質純資産で査定します。そして融資の延滞状況、返済の減額・猶予の状況も含め、債務者区分が決められます。

銀行からあなたの会社がどの債務者区分とされるかにより、融資審査の通りやすさが大きく変わります。「正常先」であれば融資審査は通りやすく、「その他要注意先」となると融資は受けにくくなるが全く受けられないことはなく、「要管理先」以下になると新たな融資は困難になります。

あなたが自社の債務者区分を知るにはこの方法があった

債務者区分が良いほど融資審査は有利になります。良い債務者区分になるには、まずは自社が融資を受けている銀行からどの債務者区分を付けられているかを知りたいです。なお銀行ごとに、あなたの会社に付けている債務者区分が異なることもあります。例えばA銀行からは正常先、B銀行からはその他要注意先に付けられることもあります。

銀行があなたの会社に付けている債務者区分を知るにはどうしたらよいのでしょうか。もっとも良い方法は、銀行に直接、聞いてみることです。

次のように銀行に聞いてみてはどうでしょうか。

「私の会社の債務者区分を教えてください。悪い区分でも抗議はしません。現状を知り、今後は少しでも良い債務者区分になれるよう、経営努力をしていきたいのです。」

そして債務者区分を知ったら、1つでも良い債務者区分になるにはどうしたらよいか、銀行にアドバイスを求めてみてはどうでしょうか。

銀行は債務者区分を決めたら連動して信用格付を決める

債務者区分が決められたら、それに連動して銀行は融資先企業に信用格付を付けます。次の図は債務者区分と連動した信用格付の例です。

債務者区分 信用格付
正常先 1格
2格
3格
4格
5格
6格
その他要注意先 7格
8格
要管理先 9格
破綻懸念先 10格
実質破綻先 11格
破綻先 12格

信用格付は、会社の決算書の数値を見て計算される各財務指標や、定性面(経営者の能力、後継者の有無、会社の技術力、販売力など)などによって決められます。ただし債務者区分ありきです。いくら決算書の内容が良いとしても、債務者区分がその他要注意先となっていれば、正常先の区分(上の例では1格~6格)にはなれません。

信用格付においても、良い格付になるほど融資審査は有利に、金利は低くなりやすくなります。