銀行は融資審査で損益計算書をどのように見るのか

銀行が融資審査で企業を見る上で重要となるのが決算書。その中の損益計算書で、銀行が特に重視するのは、営業利益、経常利益です。当期純利益は、その期、特有の特別利益・特別損失によって大きく左右されるため、会社が事業でどれだけ利益を稼ぐ力があるのかを見る数値としては適しません。

例えば経常利益が2000万円あるのに、不動産売却損で△3000万円を出して当期純利益がマイナスとなってしまった場合。その会社は赤字ですが、経常利益はプラスであるため、利益を稼ぐ力がない会社と評価するのは問題です。銀行は営業利益、経常利益を見て、その会社がどれだけ利益を稼ぐ力があるかを見ます。営業利益では会社が事業でどれだけ稼ぐ力があるか、経常利益では借入金の支払利息なども含め会社が経常的にどれだけ稼ぐ力があるか、を見ることができます。

営業利益と経常利益は黒字であることが重要です。赤字であれば利益を稼ぐ力がないことになり、銀行としては、融資をしても最後まで返済してもらえるか不安となり、審査が厳しくなります。

銀行から融資を受けやすくするために損益計算書は見栄えを良くできる

損益計算書では、粉飾ではなく、正当に、見栄えを良くする工夫ができます。

あなたの会社の決算書の、損益計算書を見てください。次の構造になっています。

1.売上高

売上原価

2.売上総利益

販売費及び一般管理費

3.営業利益

営業外収益

営業外費用

4.経常利益

特別利益

特別損失

5.税引前当期純利益

法人税、住民税及び事業税

6.当期純利益

銀行の融資審査では3.営業利益、4.経常利益を重視し、6.当期純利益は重視しません。また、1.売上高が大きいほど、会社の規模が大きくなるため必要な運転資金が大きくなると見て、融資の金額を増やしやすいです。ここから、次の工夫が考えられます。

  1. 営業外収益に計上しようとしている収益で売上高にできるものはそうする。
  2. 特別利益に計上しようとしている収益で売上高にできるものはそうする。売上高にできないものでも営業外収益にできるものはそうする。
  3. 販売費および一般管理費に計上しようとしている費用で特別損失にできるものはそうする。特別損失にできなくても営業外費用にできるものはそうする。
  4. 営業外費用に計上しようとしている費用で特別損失にできるものはそうする。

これら4つの視点で考えることにより、売上高・営業利益・経常利益を正当に最大化できます。

ある会社では、役員が退職し、役員退職金2000万円を販売費および一般管理費に計上しました。その結果、営業利益が△1000万円の赤字、経常利益が△1500万円の赤字となってしまいました。役員退職金は毎期発生しない突発的なものだったのですが、特別損失にできるところを販売費および一般管理費にしてしまったことで営業利益・経常利益が赤字となり、決算が出て1年は融資が受けづらかったです。

粉飾はいけませんが、正当にこれら工夫を行えば、損益計算書の見栄えがよくなり、融資審査が通りやすくなったり、銀行が融資を行っている企業に付ける信用格付が高くなるなど、会社にとって良いことになります。

具体的にどのような工夫があるか考えてみましょう。

1.営業外収益に計上しようとしているとしている収益で売上高にできるものはそうする。

営業外収益・特別利益は、どちらも企業の本業以外の活動によって得られる収益です。営業外収益・特別利益の違いは次のとおりです。

  • 営業外収益は毎期継続的に発生する収益、もしくは継続的に発生しないその期だけ突発的に発生したが金額が小さい収益。
  • 特別利益はその期だけ突発的に発生した、かつ金額が大きい収益。

突発的に発生したが金額が小さい収益は特別利益ではなく営業外収益にできますが、どこまでが金額が小さいとするかは企業ごとの判断となります。

営業外収益には次のものがあります。

  • 受取利息
  • 受取配当金
  • 為替差益
  • 売買目的有価証券の売却益
  • 製造業や卸売業など本業があり、会社でビルを所有していて、一部を賃貸に出していて得られる賃貸料
  • 製造業や建設業でのスクラップ売却による収益

営業外収益に計上しようとしているとしている収益の中で売上高にできるものはそうしたいです。商業登記簿の事業目的の中に書かれている事業は本業と考えることができます。例えば本業がある会社が副業で自社ビルの一部を賃貸している場合。不動産賃貸業を事業目的の中に書くことで、不動産賃貸料の収入を売上高に計上できないでしょうか。また、副業で保険代理店を行っていて営業外収益に計上していれば、売上高に計上できないでしょうか。

2.特別利益に計上しようとしているとしている収益で売上高にできるものはそうする。売上高にできないものでも営業外収益にできるものはそうする。

特別利益には次のものがあります。

  • 不動産・機械・車両などの固定資産売却益
  • 子会社や関係会社の株式の売却による子会社・関係会社売却益
  • 貸倒引当金など引当金の戻入益
  • 助成金や補助金の受け取り
  • 保険金の受け取り
  • 債務免除益

特別利益に計上しようとしていると収益の中で売上高にできるものはないでしょうか。考え方は、上記、営業外収益で計上しようとしている収益を売上高にできないかで述べたことと同じです。

次に、特別利益で売上高にはできなくても営業外収益にできるものはないでしょうか。毎期継続的な収益として考えられるもの、もしくは突発的な収益でも金額が小さい収益がその候補となります。例えば助成金や保険金は、毎年のように受け取っていれば毎期継続的な収益として営業外収益に計上できないでしょうか。または、突発的な収益でも売上高の1%以内であれば営業外収益とするルールを自社で決めていれば、年商1億円、今回受け取った助成金が30万円として営業外収益に計上できないでしょうか。

3.販売費および一般管理費に計上しようとしているとしている費用で特別損失にできるものはそうする。特別損失にできなくても営業外費用にできるものはそうする。

営業外費用と特別損失は、どちらも企業の本業で発生したのではない費用・損失です。営業外費用・特別損失の違いは次のとおりです。

  • 営業外費用は毎期継続的に発生する費用、もしくは継続的に発生しないその期だけ突発的に発生したが金額が小さい費用・損失。
  • 特別損失はその期だけ突発的に発生した、かつ金額が大きい費用・損失。

突発的に発生したが金額が小さい費用は営業外費用となりますが、どこまでが金額が小さいとするかは企業ごとの判断となります。

特別損失には次のものがあります。

  • 自然災害や盗難で発生した損失
  • 不動産・機械・車両などの固定資産売却損
  • 不動産・機械・車両などを廃棄・処分した固定資産除却損
  • 子会社や関係会社の株式の売却による子会社・関係会社売却損
  • 貸倒引当金など引当金の繰入損
  • 役員退職金
  • 従業員への決算賞与
  • 役員への賞与(税務署へ事前確定届出給与として届け出ているもの)

なお販売費および一般管理費とは、本業の売上を上げるためや、会社を維持するために使われる費用で、売上原価以外の費用を言います。売上原価は、販売した商品・製品を仕入れたり製造したりするのにかかる費用です。

販売費および一般管理費に計上しようとしている費用の中で、特別損失にできるものはそうしたいです。例えば従業員退職金でも従業員が少なく毎期のように退職金が支払われない場合。突発的に発生した費用として特別損失にできないでしょうか。

事務所を移転したり、新規店舗を出店したりする場合。引越代や移転・出店に伴う消耗品費は、販売費及び一般管理費に計上しようとしているとしていれば、それらは移転費用として特別損失にできないでしょうか。

販売費および一般管理費に計上しようとしている費用の中で特別損失にはできなくても、営業外費用にできる費用はないかも考えたいです。例えば売掛金を入金期日より早く入金してもらった場合、売掛先に支払う売上割引。これを支払手数料として販売費および一般管理費に計上しようとしていれば、売上割引として営業外費用にできないでしょうか。

4.営業外費用に計上しようとしているとしている費用で特別損失にできるものはそうする。

営業外費用には次のものがあります。

  • 支払利息
  • 手形売却損
  • 為替差損
  • 売買目的有価証券の売却損
  • 売上割引(売掛金を入金期日より早く入金してもらった場合に払うお金)

営業外費用に計上しようとしている費用の中で、特別損失にできるものはないか、考えたいです。営業外費用は毎期継続的に発生する費用、もしくは継続的に発生しないその期だけ突発的に発生したが金額が小さい費用です。特別損失はその期だけ突発的に発生した、かつ金額が大きい費用・損失です。

例えば貸倒損失は、売掛金などの貸倒損失は販売費及び一般管理費、貸付金など本業以外の取引で生じたものは営業外費用、に計上されます。貸倒損失が起きるのは毎期ではなく突発的、そして貸倒金額が小さくなければ特別損失に計上できないでしょうか。

 

以上のように、損益計算書は、工夫しだいで正当に見栄えがよくなります。決算を行うにあたり、これらの観点から収益・費用を見直してみてください。