融資を受けている銀行では定期預金を作らない方がよいです。しかし銀行の方から定期預金を作ってほしいと言ってくることもあります。またその定期預金を担保に入れるよう言ってくることもあります。

融資を受けている銀行から、なぜ定期預金を作ってほしいと言ってくるのか

銀行が定期預金を作ってほしいと言ってくるのは次の理由があります。

  1. もし将来、融資の返済ができなくなった時にすぐに相殺できるように。
  2. 銀行が利息収入を多く得られるように。

2の場合、例えば融資残高5000万円、定期預金3000万円であれば、その会社への実質融資残高は5000万円-3000万円=2000万円です。銀行としては実質2000万円の融資で、5000万円分の融資利息を得ることができます。

銀行から定期預金を作ってほしいと言われても銀行の言い成りになるのではなく、しっかり考えるべきです。

なお融資を行った資金の全部、もしくは一部で銀行が企業に定期預金を作らせるのは両建預金と言って、独占禁止法の禁じる「優越的地位の濫用」となります。しかし、融資を行う前に事前に定期預金を作らせることによって、融資で出た資金で定期預金を作った形にはならないようにするなど、法の目をかいくぐろうとする銀行もあります。企業側ではしっかり知識を持って対応しなければなりません。

融資を受けている銀行での定期預金、2つのパターンでの考え方

融資を受けている銀行においての定期預金は、次の2つのパターンがあります。

  1. 担保として差し入れている定期預金
  2. 担保ではない定期預金

1.担保として差し入れている定期預金

定期預金を担保として銀行に差し入れるには、質権設定契約書を銀行と交わし、定期預金の通帳や証書を銀行に預けます。中には定期預金が担保とされているかどうか分かっていない会社もありますが、その場合は社内に定期預金の通帳や証書がなければ、担保として銀行に預けている可能性があります。もしそうであれば銀行に、定期預金が担保となっているかどうか確認してください。定期預金の通帳や証書が手元にあるのであれば、それは担保に入っていないことになります。

定期預金を担保としていれば、融資が返済されないかぎりその定期預金を自由に解約・引き出しできません。解約して運転資金として使いたくても銀行は担保の設定を外してくれません。

なお既に定期預金を担保に入れている会社の中には、融資残高から定期預金金額を引いた実質の融資残高が少なく、たくさんの融資利息を支払っている会社もあります。例えばある銀行で5000万円の定期預金を担保に入れていて、一方でその銀行からの融資残高が7000万円あるような会社です。7000万円-5000万円=2000万円が実質の融資残高なのに、7000万円分の融資利息を支払っているような会社です。このような会社は、銀行と交渉して担保となっている定期預金を解約し融資の返済にあてたいです。例の会社では、定期預金を解約して融資5000万円の返済にあてれば、融資残高は2000万円となり融資利息は一気に少なくなります。

2.担保ではない定期預金

担保ではない定期預金はいつでも自由に解約できます。しかし、定期預金を解約しようと銀行の窓口に行っても、その銀行から一方で融資を受けていれば、すぐに解約させてもらえないことが多いです。窓口の銀行員からその上司の銀行員に代わり、解約したい理由を尋ねられ、引き止められるケースが多いです。銀行内でそのようなマニュアルになっているのです。

銀行が定期預金の解約を引き止めたい理由は、将来、融資の返済ができなくなった時のために定期預金を確保しておきたいからです。例えば、ある銀行で5000万円の融資を受けているとします。その銀行に、担保とはなっていない定期預金2000万円があったとします。この状態で会社の資金繰りが厳しくなり、融資の返済ができなくなったとします。

普通預金や当座預金は運転資金で使うため引き出して残高はほぼなくなっていても、定期預金は解約されずそのままであれば、融資の返済ができなくなった際に銀行は定期預金を融資と相殺し、一部返済にあてることができます。

しかし、担保となっていない定期預金の解約は本来、預金者の自由であるはずです。解約しようとして銀行から引き止められたら、粘り強く解約を主張するしかありません。

私は銀行員時代、法人営業を行っていて、担当していたある会社で融資1億円ありました。その会社には一方で定期預金を5000万円作ってもらっていました。

ある日、その会社の財務担当者が私を通さず、銀行の窓口に直接行き定期預金の解約の手続きをしたいと言ってきました。その時は預金係の方で解約を引き止めてもらいました。後日、その財務担当者が定期預金の解約をしたいと再び銀行の窓口に来ました。その時も預金係の方で解約を引き止めましたが、納得がいかないとのことで後日、銀行の担当者(私のこと)が事情を聞きに会社に訪問するからと伝え、なんとか帰ってもらいました。

そして後日、私と私の上司とでその会社を訪問し、定期預金の解約は待ってほしいと話をしました。しかし、そこでも粘り強く解約したいと言われたので、最後は支店長に了解を得て、定期預金を解約しました。

このようなことがあった半年後、その会社は倒産してしまいました。今思えば、その会社は運転資金を確保しようと必死だったのです。そのために定期預金を解約したのです。このように、担保となっていない定期預金はいつでも自由に解約できるものです。

ただ、そもそも融資を受けている銀行で定期預金を作ると、このように定期預金の解約に苦労することが多いです。融資を受けている銀行で定期預金を作ることは避けるべきです。定期預金を作りたいのであれば、融資を受けていない銀行で作るべきです。