あなたは、銀行員の言うことを聞きすぎていないでしょうか。銀行員の言うことは一つ一つ、その背景があります。背景を理解した上で、あなたは銀行員の言うことを受け入れるか受け入れないか決めるべきです。それが銀行との上手なつきあい方です。
あなたは、銀行員から金融商品など銀行の扱う商品(投資信託・生命保険、振込など手数料の発生するもの、クレジットカード・リースなど、銀行が取扱うもの全てをここで言います。以下「商品」とします。)を勧められることはあるでしょうか。銀行が商品を勧めてくる裏側を見てみます。
銀行では金融商品などの数値目標がたくさんある
私は7年半、地方銀行に勤めました。最も大変だったことは、数値目標の多さです。数値目標の期間は銀行の半期決算に合わせて4月~9月、10月~3月。銀行の本部が各支店に、これだけの数値を達成するようにと数値目標を振ります。その数値目標の項目がとても多いのです。私のいた銀行では約40項目もありました。
数値目標には次のような項目があります。例を挙げます。
1.銀行のメイン業務である融資残高の増加に結びつくもの
- 融資の期中平均残高の増加
- 信用保証協会保証付融資の期中平均残高の増加
- 新規融資先数
- 住宅ローン残高増加
2.銀行の収入に結びつくもの
- 利息収入(融資の利息)
- 手数料収入(振込手数料・手形取立手数料・外国為替手数料など)
3.預金残高の増加に結びつくもの
- 年金受取り口座増加
- 給与振込口座増加
(これらにより預金口座をメインで使われるようになれば預金残高は増加するものです)
4.銀行の付随業務や、銀行関連会社の収入に結びつくもの
- 投資信託販売額
- 生命保険販売額
- クレジットカード獲得
- リース獲得
このように数値目標が設定された項目が約40項目もあり、本部から各支店に目標が振られます。
例えば融資の期中平均残高の増加目標が、半期、銀行全体で1000億円ある場合。それを支店ごとに割り振ります。A支店は都心にあり企業が多く集まっているから30億円の目標、B支店は住宅街にあり個人のお金持ちが多いから融資残高増加の目標は3億円に抑えるが投資信託販売額や年金受取り口座の目標を多くする、というようにです。支店ごとの特徴により数値目標の割り振りが異なってきます。
各支店に割り振られた数値目標は、支店の中でさらに行員ごとに数値目標を割り振ります。営業の役割である得意先係には特に多くの数値目標が割り振られます。
数値目標は達成しなければならず、また達成しなければならない数値目標の種類も多いので、目標達成のためにいつも走り回っていた、というのが私の銀行員時代の記憶です。
数値目標を割り振られた得意先係はそれぞれ、どのように達成するか思案します。得意先係はそれぞれ担当の取引先を持っています。担当先は地域で割り振られていることが多いです。
私がはじめに所属した店舗では、得意先係長の下、総勢5名の得意先係がいました。重要な取引先は得意先係長が、それ以外の取引先は4つの地区に分けられ、担当先が割り振られました。当時、得意先係の私は、約50社の担当先が割り振られました。得意先係はその限られた担当先数の中で数値目標を達成しなければなりません。
銀行の勧める金融商品など全てに付き合う必要はない
1998年に投資信託、2002年に生命保険の販売を銀行が開始し、以前に比べて銀行が取り扱う商品は複雑になりました。
銀行員は、数値目標の達成がまず頭にあります。その中で商品知識を熟知することは後回しになります。銀行員があなたの会社に商品を勧める場合、その背景にはまず数値目標があります。銀行員は商品知識を深めないまま、売りやすい商品、銀行が特に儲かる商品を売ることになりやすいです。
銀行という組織は外から見たらエリートの集団に見えるかもしれません。商品知識を熟知し、その上で勧めてくるんだろう、と見えるかもしれません。しかし実態は銀行も他の会社となんら変わりはありません。数値目標が立てられ、それを達成するためにまずは売ることが先となってしまいがちです。銀行の得意先係が売る相手は、得意先係が担当する限られた取引先の中で、となります。
なお銀行員が商品を売りやすい相手は、銀行の方が、立場が強い相手です。銀行から定期的に融資を受けているが、いつもぎりぎりの資金繰りである会社はまさしくそうです。このような会社は銀行が融資を行わなかったら資金繰りは詰まってしまうので、銀行員としては、なんでも言うことを聞いてくれやすい相手と考えます。
ではあなたの会社がなんでも言うことを聞いてくれやすい相手と思われてしまっているのであれば、どうしたらよいでしょうか。この場合に知っておきたいのは「優越的地位の濫用」という言葉です。
銀行が貸し手という優越的地位を利用して企業に何でも言うことを聞かせようとするのは、不公正な取引方法の一つとして独占禁止法で禁止されています。銀行が勧めてきた商品が不要であれば、あなたはきっぱりと断ってもよいのです。
例えば銀行員が数値目標を達成するためにあなたの会社に投資信託を勧めてきた場合。それを断ったら今後、融資が受けられなくなるのではと心配になり投資信託を勧められるままに購入したとします。その後、投資信託の価格が大きく値下がりしては、経営に大きな支障が出てしまいます。
銀行員があなたに商品を勧める場合。その背景には銀行の数値目標があること。そのために銀行員としては商品をとにかく売りたいという思いになりやすいこと。銀行員が商品知識をしっかり持った上で勧めていることは少ないこと。このことを思いながら銀行員に対応してください。
銀行員に協力するためにハードルが低い金融商品などを付き合ってあげる
銀行の担当者によっては、商品を経営者にいろいろ勧めても毎回、断られてしまい、融資についてもやる気をなくしてしまうかもしれません。
銀行員が数値目標を課せられている商品の中には、付き合ってあげるハードルが低いものもあります。例えばクレジットカード。年会費が無料かせいぜい数千円で、加入してあげることでその銀行員の数値目標の達成に向け貢献できます。このようなハードルが低い商品には付き合ってあげて、その銀行員に協力してあげる姿勢をときどき見せてあげるだけでもだいぶ違うことでしょう。