質問
弊社は源泉所得税を1年で約300万円、滞納しています。法人税、地方税、消費税は完納しています。源泉所得税は税務署と交渉し、分割で納付しています。業績は上向いてきており、今、借入でき資金があれば、より事業を展開できる状態になってきています。
税金の滞納がある場合。とりあえずは税金支払いのための資金として借入を起こしたいのですが、そう言った借入は可能なのでしょうか。
(A様)
回答
税金滞納という事実が銀行に分かれば、基本的に借入は不可能です。なお社会保険料の滞納も同様です。銀行のプロパー融資(信用保証協会保証付でない融資)、信用保証協会保証付融資、日本政策金融公庫の融資、いずれも同じです。
税金の滞納がある場合、銀行から絶対に借入できないのかどうか。実は、税金の滞納がある企業でも、借入できたケースが多くあります。そのようなケースを見ていきます。
税金滞納あっても納税証明書等提出を要求されず借入できた
金融機関から納税証明書や税金納付の領収書の提出を要求されず借入できたケースです。金融機関から融資審査の必要書類として、納税証明書や税金納付の領収書を要求されなければ、こちらからわざわざ提出する必要はありません。これらの書類を要求されず、税金滞納の事実があっても金融機関に知られず借入できた企業は多くあります。
信用保証協会でも日本政策金融公庫でも、納税証明書や税金納付の領収書の要求をされない時が結構あります。どのような基準で要求される、要求されないが決まるかは不明ですが、信用保証協会や日本政策金融公庫にて、長い期間を空けずに定期的に借入を申し込む場合、納税証明書や税金納付の領収書を要求されないケースをよく見ます。ただ、納税証明書等の提出を要求されないかどうかは「運」によるため、祈るぐらいしかできません。
納税証明書等を提出したが税金滞納の事実の記載なく借入できた
金融機関から納税証明書を要求された場合、滞納の事実が記載されない税金を滞納していた。税金納付の領収書を要求された場合、要求されていない税金を滞納していた。このようなケースです。
役所ごとの納税証明書により証明される税金の種類(法人の場合)
役所の種類 | 証明される税金の種類 |
税務署 | 法人税・消費税 (源泉所得税も管轄だが納税証明書は発行されない) |
都道府県 | 法人県民税・事業税・自動車税 |
市区町村 | 法人市民税・固定資産税・軽自動車税 (特別徴収の住民税も管轄だが納税証明書は発行されない) |
例えば、税務署から発行される納税証明書を金融機関から要求される場合。その納税証明書は、法人税・消費税の未納がないことを証明するものですが、一方で源泉所得税、法人県民税、法人市民税などの未納がないことは証明しません。それらを滞納していても、納税証明書には記載されず、滞納があっても金融機関に知られないことになります。
税金納付の領収書を要求される場合も同様です。例えば「法人税・事業税・消費税(平成31年3月期分)及び源泉所得税(最近6カ月分)の領収書」というように、金融機関から必要書類を指定された場合です。この例では、法人県民税、法人市民税などの滞納があっても金融機関に知られないことになります。また極論ですが、長い期間に発生した税金の滞納があっても、上記の例でいえば直近の分のみ税金を完納している状態であれば、その前の税金の滞納の事実は知られないことになります。
このように、いろいろな税金の種類の滞納がある場合。融資審査にあたって必要となる納税証明書で証明される税金を優先して支払うことにより納税証明書を発行し、金融機関に提出することにより、そこに記載されない税金の滞納があったとしても借入できます。税金納付の領収書を要求された場合も同様です。
なお社会保険料の滞納がある場合。銀行や信用保証協会へはその滞納の事実が分かる書類がなく、その事実を知られずに借入できることが多いです。ただ日本政策金融公庫の場合、預金通帳を見られ社会保険料の滞納が分かってしまうことが多く、それで借入が難しくなります。
税金滞納を金融機関に知られたが分割合意を評価され借入できた
信用保証協会保証付融資では、税金の滞納があっても、税務署と1年以内に分割で支払う合意ができていて、それを評価され、借入できることがあります。税務署では換価の猶予という分割支払いの制度があり、それを利用して合意した場合などです。またその合意は、書面であることが必要です。
それぞれの都道府県の信用保証協会によって、1年以内に分割で支払う合意があれば保証を下ろすことを認めているところもあれば、全く認めていないところもあります。
税金滞納を金融機関に知られたが借入で解消するよう求められた
信用保証協会保証付融資では、借入で得た資金で税金の滞納を解消することを条件として借入できることがあります。その場合、今後は新たに税金の滞納を発生させないことも厳しく言われ、その後チェックされます。
税金滞納を解消する条件で審査が通り、解消した上で借入できた
信用保証協会保証付融資では、税金滞納を解消してから保証を下ろす条件で審査が通るケースがあります。例えば500万円の税金滞納があり、それを解消する条件で1000万円の保証を下ろす、といった場合です。この場合、親などから500万円を一時的に借りて税金滞納を解消した上で1000万円借入し、その中の500万円を借りた人に返済する、という流れが考えられます。
決算書で税金滞納の事実が分かり銀行から借入できないことも
注意点ですが、決算書の貸借対照表の中の、勘定科目「未払法人税等」「未払消費税等」で、税金滞納の事実が分かることがあります。「未払費用」の社会保険料、労働保険料でも同様です。
ノンバンクで借入して税金滞納を解消して銀行から融資を目指す
そもそも税金滞納を解消してしまえば、銀行からの借入に近づきますが、そのための資金が必要です。親や親族、知人などから一時的に借りて税金滞納を解消し、銀行から借入して、借りた人に返す、という方法が考えられます。ただし、税金の滞納が解消されても、銀行の融資審査が必ず通るとは言えず、もし銀行から借入できなかった場合に借りていた人への返済ができなくなるのが心配です。
ビジネクストやビジネスパートナーなどのノンバンクは税金滞納があっても柔軟に借入できるケースが多く、ノンバンクから借入して税金滞納を解消し、銀行からの借入を目指す方法も考えられます。この場合、親族や知人から借りる場合とは違い、もし銀行から借入できなくても、ノンバンクへ毎月少しずつ分割返済していけばよいです。
税金滞納により銀行から借入できなければ返済も止める
なお税金滞納により銀行から借入できず、一方で既存の借入の返済を変わらず毎月行うのであれば、資金繰りの負担は大きくなります。この場合、銀行にリスケジュール、つまり決められた返済を減額・猶予する交渉を行うべきです。