売掛先が倒産し、売掛金が回収できず貸し倒れとなった時。こちらは大きなダメージを被ってしまいます。売掛金が回収できないと、資金繰りが厳しくなります。このような事態を防ぐためには日頃、売掛先の動向に注意しておく必要があります。各売掛先の業績や資金繰りを観察します。またそれでも売掛金が貸し倒れになった場合のダメージを少なくするために、得意先を分散させる、という対策が考えられます。

売掛金の貸し倒れを防ぐため、売掛先の業績や資金繰りを観察する

売掛先の資金繰りが厳しくなってくると、その売掛先は倒産が近づいていることとなり危険です。売掛先の資金繰りが厳しくなっているかどうか、どのように観察すればよいでしょうか。

資金繰りが厳しくなってきている売掛先に起こる現象は、下記のとおりです。

  • 売掛金の支払いが遅れるようになってきた。
  • (売掛先から見て)支払サイトを長くしてもらえないか頼んできた。
  • 請求書の金額からやたら値引きしようとする。

これらの現象が売掛先で起これば、売掛先の資金繰りが厳しくなってきたと考え、警戒を怠らないようにします。

その他、帝国データバンクや東京商工リサーチといった調査会社を使って情報を入手すること、業界の知人からうわさを聞くこと、売掛先の社長や担当者の日々の言動や行動でおかしなところがないか観察すること、これらも有効です。

資金繰りが厳しくなると、その社長は資金調達先を探したり、支払いを伸ばす交渉を行ったりするなど、資金繰りのための時間に追われてしまいます。社長が、今までこちらによく訪問してきたのに最近来なくなったり、今までその会社の事務所でよく見かけたのに最近見かけることがなくなったりしたら、その会社の資金繰りが厳しくなっているのではないか、疑ってみます。

そして売掛先の資金繰りが厳しいと思われるのであれば、その売掛先との取引の縮小・解消を検討します。

なお、既存の売掛先だけでなく新規先との取引を開始しようとする時も、同様に気を付けなければなりません。新規先との取引開始のきっかけが、こちらからではなく向こうからのアプローチであれば、他の会社に取引を断られたからあなたの会社にアプローチしてきたとも考えられます。また初めから大きい取引を要求されれば、取り込み詐欺、つまり後払いで大きく商品を仕入れ、代金を支払わず商品を売って得たお金を持って逃げてしまう、ということも考えられます。新規先の信用状況も、しっかりと見るようにします。

売掛金が貸し倒れになった場合のダメージを少なくするために、得意先を分散させる

どの得意先にいくら売上が上がっているのか、ここ1年の得意先別売上高を見てください。各得意先への売上高が、全体の中でどれだけのシェアを占めているのか、見てみます。次の2つのパターンを見てください。

売上高順位 パターン1 パターン2
1位の得意先 85%(A社) 15%
2位の得意先 7% 11%
3位の得意先 4% 8%
その他 4% 66%

パターン1の会社では、売上のほとんどが1社に偏っています。一方パターン2の会社では、売上が多くの得意先に分散されています。

リスクが高いのはパターン1の会社です。85%の売上を占める第1位の得意先(A社とします)がもし倒産したらどうなるでしょうか。85%の売上が以後、消滅してしまいます。さらに、A社に対する売掛金や受取手形が貸倒れになってしまいます。85%の売上シェアですから売掛金や受取手形は相当大きい金額になっています。こちらも倒産の危機に陥ってしまうことでしょう。

またA社が倒産しないでも、A社が突如、取引を打ち切ると言って来たらどうでしょうか。例えばパターン1の会社は製造業で、A社の下請けであるとします。A社が、製造は外注に出さず内製化する方針に切り替わったらどうでしょうか。もしくはA社が海外に工場を作り、そこで製造することになったらどうでしょうか。パターン1の会社は、売上が85%落ち、継続困難になります。

そこまでいかなくても、A社が価格をたたいてきたらどうでしょうか。パターン1の会社はA社に売上の大部分を依存しており、こちらの立場はどうしても弱くなります。A社からの価格値下げ要求を拒否しようとしても、それなら別の会社に頼むと言われかねません。A社からの仕事がなくなってしまえば、パターン1の会社は立ち行かなくなります。A社からの価格値下げの要求は飲まざるをえないでしょう。

このように売上を1社に依存すると、経営のリスクがとても高くなります。あなたの会社がパターン1のような状態であれば、新規取引先の開拓を行っていくべきです。売上の分散を図る必要があります。

売掛金が貸し倒れてしまったらどうするか

売掛先の資金繰りが厳しく、売掛先の方から支払いを遅らせてほしいと交渉してきた場合。その売掛先を警戒し、今後の取引を止め、これ以上の売掛金未回収を起こさないよう対策することが考えられます。

しかし全体の売上に対するその売掛先へのシェアが高いのであれば、取引を止めることは売上を大きく減らすことになります。売上を減らしたくないと考え、または売掛先から取引継続を頼まれて断れず、取引を継続して未回収の売掛金がどんどんふくらんでしまう会社がよくあります。そして結局その売掛先が倒産してしまったら、大きな貸し倒れを出してしまいます。

売掛先が倒れ、売掛金が回収できず貸し倒れとなった場合、どうしたらよいでしょうか。この場合、入ってくるべき現金が入ってこないですから資金繰りは悪化します。資金繰り悪化の状態を脱するためまず考えられる策は、銀行に運転資金の融資を申し込むことです。ただ銀行は「取引先のA社が倒産して2000万円回収できなくなってしまいました。その分、融資してください。」と言われ融資を申し込まれても、審査を通しづらいものです。

このような銀行の考え方をふまえ、どのように運転資金の申し込みをすると良いのか、考えてみてください。銀行に売掛金を回収できず貸し倒れとなったことを伝えるのであれば、それで一時的に赤字が出ても、今後の経営改善により業績は元に戻ることを、経営計画書で示して交渉します。

それで融資審査が通れば良いのですが、もし通らなければ、資金繰りの危機から脱することはできません。資金繰りをもう一度組み立てて、対策を取らねばなりません。

銀行返済が大きな負担となっていれば、銀行にリスケジュール(返済減額・返済猶予)の交渉を行います。リスケジュールしても資金繰りが回らなかったり、もしくはすでにリスケジュールしていたりすれば、次は買掛金や諸経費、税金や社会保険料などの支払いを見直して、なんとか資金繰りが回る状態を作っていきます。

ちなみに売掛金が回収できなくなった時の備えとして経営セーフティ共済があります。経営セーフティ共済は倒産防止共済とも言い、得意先が倒産した場合、貸し倒れ金額の範囲内で、掛け金の10倍まで融資を受けられる制度です。なお掛け金は毎月5,000円~200,000円掛けられ、掛金総額 は800万円が上限です。

経営セーフティ共済