筆者に資金繰りの相談に来る経営者を見ると、資金繰りが厳しくなる原因にはいろいろなことがあると感じます。事業が赤字であることは資金繰りが厳しくなる最も多い要因ですが、資金繰りが厳しい会社の経営者は、他にも自分の会社の首を絞めることをやらかしてしまっています。そのうちの1つが、自分の会社のお金を知人や関係会社に貸付してしまうことです。

経営者は知人にお金を貸付してはいけない

自分の会社の資金繰りが厳しいにもかかわらず、銀行から借入れできた、売掛金の回収が多くあったなど、現金が多くなったタイミングで知人の経営者に泣きつかれ、自分の会社のお金を貸付してしまう経営者をよく見ます。将来の資金繰りのことを計算もせず、手元に多くの現金預金があるというだけで、貸付しても問題ないと経営者は考えてしまうのです。

知人の会社にお金を貸付すると、決算書では貸付金として載ってしまいます。融資をしている銀行から見たら、その会社は「融資で得た資金は自分の会社の運転資金に使うと言っていたのに、別のことに使ってしまった」会社として、一気に銀行からの信用がなくなります。

銀行に融資を申し込むと、資金が必要な理由を必ず聞かれます。それを資金使途と言います。資金使途は、融資審査で銀行が考慮する要素の一つです。融資実行後、言われていた資金使途とは別のことにお金を使うと、資金使途違反として、その銀行は今後の融資を出さなくなることが多いです。融資実行の直後に別のことに資金を使ったわけでなくても同様です。決算書を見ると、銀行からの借入金が増え、一方で知人の会社への貸付金が発生しています。その決算書を銀行が見たら、融資して得た資金を知人の会社への貸付として使った、と見えてしまいます。

そもそも自分の会社の資金繰りが厳しいのに、知人の会社に貸付すればいっそう資金繰りが厳しくなります。一時期、資金が豊富にあったとしても、資金は時期により増減します。たまたま資金が多い時に知人の会社にお金を貸付すると、資金が少なくなる時期に資金不足に陥る可能性が高いです。

資金繰りが厳しい経営者は、お人よしのタイプが多いです。従業員に対して甘いから、従業員はあまり働かなくても給料をもらえると勘違いしてしまい、従業員は働かなくなって会社の売上は下がります。取引先に対して甘いから、価格交渉が甘くなって利益が少なくなり、最悪、損失を出してしまうこともあります。知人の経営者に泣きつかれたら、その時に資金があれば貸付してしまいます。

知人の経営者から貸付してほしいと言われた場合だけでなく、知人や親族が個人的にお金を貸付してほしいと言ってきた場合でも、断るべきです。お世話になった人だからと情にほだされてもいけません。「申し訳ない、今、会社に全くお金がない。」と言って、断ってください。

関係会社に貸付してはいけない

関係会社が別にあり、赤字で資金繰りが厳しい場合。利益が出ている会社から関係会社に対してお金を貸付してしまう経営者がいます。

一つ事例を述べます。弁当製造業の会社があり、関係会社で軽貨物の運送業がありました。代表者は両社同じです。運送業の方は利益が出ていて資金繰りに問題ありませんでしたが、弁当製造業の方は赤字を何年も続けて出してしまっていました。弁当製造業の方、経営改善を行うことで黒字化になる見込みがあればまだしも、全く見込みがない場合、弁当製造業を思い切ってやめるべきでした。しかし弁当製造業の赤字を、利益が出ていた運送業の方から資金を貸付することによって補てんし続けました。

その結果、弁当製造業だけでなく、運送業の方も税金や社会保険料の滞納が多額になってしまいました。弁当製造業は結局、破産することになりましたが、運送業も多額の滞納があり、継続困難となってしまいました。

この事例のように、関係会社がある場合、利益が出ている方から赤字の会社に貸付するべきではありません。あくまで別の会社として、それぞれ独立して資金繰りを行っていくべきです。銀行からの借入れも、それぞれの会社独自で行っていくべきです。

銀行は転貸資金、つまり他の会社に貸付するための資金は融資しません。そのため融資した資金を別の会社に転貸してしまうと資金使途違反になります。赤字の会社の方でも経営計画書を作り将来どのように黒字化していくか説明するなどして、独自で融資を受けられるよう銀行と交渉するべきです。

赤字の会社は経営改善して早急に黒字化するべきです、利益が出ている会社から資金を補てんしてしまうと、赤字の会社は資金が回るため経営改善が遅れてしまいがちになります。赤字の会社が経営改善して黒字化する見込みがなければ、赤字の会社の事業はやめるべきです。そして利益が出ている会社のみ残れば、生き残っていけます。

関係会社への貸付金が増えることで、融資を出している銀行からは資金使途違反と見られます。そうすると今後、銀行から新たな融資を受けづらくなり、利益が出ている方の会社も資金繰りが厳しくなってしまいます。

なお関係会社への貸付金ではなく、出資金を増やす場合でも同様です。

関係会社があって、利益が出ている会社から赤字の会社へ資金を貸付することで、利益が出ている会社の方も資金繰りが厳しくなり共倒れになるケース、よくありますので気を付けてください。