資金繰りが厳しい会社の経営者の中には、詐欺にあっている人をよく見ます。詐欺にあったから資金繰りが悪化したのか、それとも資金繰りが厳しいから詐欺にあうのか、両方です。

なぜ資金繰りが厳しい会社の経営者は詐欺にあいやすいのか、2つの理由があります。1つ目の理由は、資金繰りが厳しいため、経営者は一獲千金をねらおうとしてしまうから。2つ目の理由は、資金繰りが厳しい会社は経営者が甘いから。従業員に甘いから従業員が怠けるようになり、取引先に甘いから価格交渉が相手の有利なように進み、その結果、会社は赤字になり資金繰りは厳しくなります。そして人を信じやすいから詐欺にあいやすくなります。

詐欺にあって資金繰りが悪化した経営者の事例

ある経営者の事例をお話します。融資詐欺の事例です。

ある経営者に、下記のFAXが送られてきました。下記のFAXは、その経営者から私が見せてもらった実物です。実際にこのようなFAXは、企業によく送られてくるものです。そのようなFAXは全てが詐欺ですから無視すればよいのですが、この経営者は資金繰りに困っていて、FAXにとびついてしまいました。

これは実際のFAXです。経営者がこのFAXを信じてしまい、申し込んでしまいました。「お申込み記入欄」が黒塗りなのは、実際にこのFAXに記入し申し込んだからです。相手の社名、住所、代表者名は全て架空のため、そのまま載せています。

このFAXを受け取った経営者は喜び、FAXを返信してしまいました。そうするとどうなるか、実際に起こったことをお話します。

FAXを送った後、電話がかかってきました。

「融資実行までの手続きを進めます。まずは貴社の信用状況を見させてほしく、貴社に資金があるか調べるため、100万円を○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○まで振り込んでください。」

と指示がありました。こちらが借入れするのに、なぜ逆に100万円を振り込まなければならないのか。その時点で普通は詐欺に気づくものですが、この経営者は資金繰りが厳しかったこともあり、3000万円の融資を受けられるならと少しも疑わず100万円を振り込んでしまいました。

そして1、2日後、電話がかかってきました。

「当方の審査が通りました。次に、保証会社による手続きを行います。保証会社が貴社の信用状況を見るために、100万円を・・・・・に振り込んでください。」

と指示がありました。そしてその経営者、また100万円を振り込んでしまいました。

そうしたらまた、電話がかかってきました。次は保証会社の保証料として、200万円を支払ってください、とのことです。いろいろな名目で、相手は支払いを要求してきます。しかし、いつまでたっても3000万円の融資は受けられません。そのようなやり取りが何回もあり、その経営者は総額750万円も支払ってしまっていました。資金繰りが厳しい会社でしたが、売掛金の入金が多い時期でたまたまそれだけの金額があったのです。それもほとんど使ってしまいました。

この経営者はやっとおかしいと気がつき、FAXに書いてあった住所のところへ地図で調べて行きました。しかし住所にあったビルには、FAXに書いてある会社は見当たりませんでした。

振込先に指定された預金口座の名義は個人名でした。そこでもおかしいと気づかなければならないのですが「資金のやりとりは担当者個人の預金でお願いしております。」と言われ、怪しいと気づきませんでした。もちろんその預金口座は、詐欺集団がどこかで手に入れた口座で、詐欺集団とは関係ない個人の口座です。経営者はその個人口座の銀行の支店に電話を入れたものの「その口座、詐欺に使われているらしくこちらも調べています。」とのことでした。もちろん、詐欺集団は入金があるごとにすぐに引き出してしまっています。詐欺集団の足取りは全くつかめません。警察に被害届を出しましたが、警察はこのような詐欺事件をたくさん受けており、1つ1つ丁寧に対応できないようです。

このFAXを読むと「厳選なる審査の与信結果、優良企業様に向けて下記の内容でのご融資が可能になりました。」とあります。これを読むと、自分の会社の融資が可能になったと勘違いしてしまいます。そしてお金を支払うことは、融資手続きの一つと思わせてしまいます。実に巧妙です。

あなたはこのような詐欺に引っ掛からないと思うかもしれません。しかし、実際に引っ掛かってしまう経営者はたくさんいます。経営者から「このようなFAXが来たんだけど、信頼してよいのでしょうか?」という質問が筆者のところによく来ます。すぐに詐欺のFAXとは気づかないようです。それだけ世の中には詐欺が多くありますし、実際に詐欺に引っ掛かってしまう経営者は多くいます。資金繰りが厳しいと、冷静な判断ができず、わらにもすがる思いでこのような話に乗っかってしまう経営者が実際に多いのです。

詐欺師は、この事例以外にもいろいろな手を使ってきます。

「私がつながっている金融機関へ、貴社に融資するよう話をする。審査書類の作成のため、活動費として着手金100万円をほしい。」

と言って融資を受けられることを経営者に思わせ、逆に着手金の名目で多額の金銭を支払わせる詐欺。

「私に資金を預ければ、それを運用して1年ごとに配当を20%支払える。」

と言って、お金を預けた後、配当の時期に連絡がとれなくなってしまう詐欺。

資金繰りが厳しい上に、このような詐欺に引っかかってしまえば目も当てられません。経営者はこのような詐欺に引っかからないよう、十分に注意したいものです。