銀行の中で融資の審査はどのように行われるか

筆者は東海地方の地方銀行に7年半勤め、法人営業を中心にやってきました。法人営業では融資を売り込む営業が中心となるものです。企業から融資の申込みがあったら、自分で稟議書を書いていました。

融資の申込みがあった場合、審査は稟議で行われます。担当者が稟議書を書き、銀行内で稟議書が何人もの人に回覧されます。稟議書が回ってきた銀行員が融資を可・否どちらにしたいか理由とともに意見をそれぞれ書き、最終決裁者が最後、融資の可・否を決めるというやり方です。

銀行の中で融資の稟議書はどのように回覧されるか

銀行には本部と支店があります。筆者が勤めていた銀行は、本部が17階建てのビルで、支店が約150カ所ありました。支店の中は預金係、融資係、得意先係と分かれています。それぞれの係の役割は次のとおりです。

  • 預金係…窓口で顧客と預金や振込などのやり取りや、支店の中で出納や振込などの事務を行う係
  • 融資係…融資審査を行う係。
  • 得意先係…融資量の増加や新規融資先開拓など、支店の業績を上げるための営業活動を行う係。

それぞれの係に係長があり、その上が次長、支店長、という構造です。

稟議書は次のように回覧されます。

  1. 企業を担当する得意先係が稟議書を書く。
  2. その上司である得意先係長に回覧される。
  3. 融資係に回覧される。
  4. 融資係長に回覧される。
  5. 次長に回覧される。
  6. 支店長に回覧される。支店長が最終決裁者となる案件はここで終わり。本部が最終決裁者となる案件は本部に回覧される。
  7. 本部(審査部・融資部など)に回覧され、本部内でも2、3人に回覧され、最終決裁される。案件によっては役員や頭取が最終決裁者になる場合もある。

また融資係が企業から融資の申込みを受けることもあります。その場合は融資係が稟議書を書き、そこから融資係長に回覧され、その後は上記の流れになります。

誰が融資の最終決裁者となるかはどのように決まるのか

誰が最終決裁者になるのか、それぞれの銀行でルールが決まっています。その銀行から企業への融資総額や、企業の債務者区分(融資先企業の財務状態や返済状況から銀行が企業の信用度を区分したもの)、支店の格などで決まります。

なお支店の格は、次のように決められています。下記は一例です。

  • A格の支店…地域の中心場所にあり、規模が大きい企業との取引が多く、支店全体の融資総額が大きい支店。
  • B格の支店…A格の支店の周辺地域にあり、中堅企業との取引が多く、支店全体の融資総額は銀行の中で中ぐらいの支店。
  • C格の支店…小規模企業や個人との取引が多く、支店全体の融資総額が小さい支店

また支店の格が高いほど、銀行の中で上の位の支店長が赴任します。

支店長と本部で融資の最終決裁者が分かれる実際の例

申し込まれた融資案件が支店長で最終決裁するのか、本部で最終決裁するかは、次の例のような基準を各銀行で決めています。

支店長が決裁できる1企業への融資総額の例(信用保証協会の保証部分は除く)
支店の格 正常先 要注意先
1億円 3000万円
5000万円 2000万円
3000万円 1000万円

1件1件の融資申込み金額ではなく、企業に対し、その銀行が出している融資総額が基準になることに注意してください。

例えばある会社が、上の例の決裁権限である銀行から、既にプロパー融資(信用保証協会保証付でない融資)で4000万円の融資を受けているとします。支店の格はB格で、会社の債務者区分は正常先です。上記の表を見ると支店長決裁は5000万円までですので、新たな融資をプロパー融資で3000万円申込んだら、融資の総額は4000万円+3000万円=7000万円になります。そうなると支店長決裁の上限金額である5000万円を超えるため、本部が最終決裁者となります。

支店長の決裁権限金額を意識した融資交渉術とは

支店長が決裁できる範囲内の融資か、本部まで稟議書が回覧される融資かは、融資審査を通しやすくするポイントの一つです。本部まで稟議書が回覧される融資に比べたら、支店長で決裁できる融資は審査が通りやすいです。

支店の業績を上げることは支店長に課せられた仕事の一つです。支店の業績を上げるには融資量の増加が重要です。そのため支店長は、融資審査をなるべく通したいと思っています。一方で本部(融資部・審査部など)は、将来貸倒れを出さないことに重点を置いています。そのため本部決裁の融資は審査が厳しくなりますし、また本部の審査が必要となる分、審査にかかる時間は長くなってしまいます。

支店長決裁の金額を、普段やりとりしている銀行員に聞き、支店長が決裁できる範囲内での融資金額で申し込むことは、融資審査を通しやすくする方法の一つです。一方で支店長で決裁できる金額を意識しすぎると、その銀行から多くの融資を受けられないことになってしまいます。本部決裁の融資を通せるような、財務内容の良い企業になることを目指したいものです。