税金や社会保険料を滞納している会社に多いのが、銀行の預金や、所有している不動産を差し押さえられることです。また、買掛金などを支払わないことで、取引先からいきなり仮差し押さえをされることもあります。しかし税金や社会保険料の滞納による差し押さえが、中小企業では圧倒的に多いです。

差し押さえされた場合どうなるか、銀行取引約定書ではこう書かれている

銀行から融資を受けるにあたり交わす銀行取引約定書には、次のような条項があります。

 

「次の事由が一つでも生じた場合には、乙(銀行)からの通知催告等がなくても、甲(融資を受けている会社)は乙に対するいっさいの債務について当然期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとします。
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・甲またはその保証人の預金その他の乙に対する債権について仮差押、保全差押または差押の命令、通知が発送されたとき。」

 

「次の事由が一つでも生じた場合には、乙からの請求によって甲は乙に対するいっさいの債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとします。
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・担保の目的物について差押、または競売手続の開始があったとき。」

 

「債務について期限の利益」とは、受けている融資が、金銭消費貸借契約書などで決められた返済スケジュールどおり返済していけば、一括で返済しなくてもよい利益です。例えば融資3000万円、返済期間5年、毎月50万円返済と決められれば、その通りに返済していけば一括で返済しなくてもよいです。期限の利益を失えば、すぐに銀行に全額をまとめて返済しなければなりません。しかし全額をまとめて返済するのは難しいため、信用保証協会保証付融資であれば代位弁済、不動産担保を入れていれば競売など、次の段階に入っていくことが多いのが実際です。

このように、銀行取引約定書に差し押さえについて書かれています。書かれている内容を分かりやすく言うと次のとおりです。

  • 融資を受けている会社、もしくは連帯保証人(代表者であることがほとんど)の預金が差し押さえられたら銀行が会社に通知催告しなくても融資を一括返済する。
  • 銀行に入れている担保(不動産など)が差し押さえられたら銀行が会社に請求すれば融資を一括返済する。

このように、差し押さえされると、銀行から、現在受けている融資の一括返済を要求されてもおかしくないのです。

しかし実際は、差し押さえがあっても銀行は一括返済の要求をしてくることは少なく、差し押さえを解除してもらうよう差し押さえしてきた相手との交渉を求めてくるぐらいです。ただ今後の融資審査では、差し押さえは大きな影響が出てきてしまいます。

差し押さえされた後は銀行から新たな融資は受けられないのか

差し押さえは銀行にとって、その会社の印象がとても悪くなるものです。また信用保証協会保証付融資を受けていれば、差し押さえの事実を知った銀行は信用保証協会に報告しなければなりません。

税金や社会保険料の滞納を一括で支払うなどして、預金や不動産への差し押さえをすぐに解除してもらった場合でも、銀行や信用保証協会への信用は失ってしまった状態です。すぐに融資が受けられるようにはなりません。

今後いっさい融資が受けられなくなるわけではありませんが、最低6カ月~1年は新たな融資を受けるのは難しくなります。銀行や信用保証協会への信用を回復していくために、差し押さえの経緯を説明し、今後は差し押さえされないように会社としてどうしていくか、書面にして銀行に説明した方がよいです。

なお差し押さえされたのが預金であれば、預金のある銀行と、もし銀行が報告すれば信用保証協会しか、差し押さえの事実を知りません。そのため、預金を差し押さえされた後でも別の銀行でプロパー融資(信用保証協会の保証をつけない融資)を受けられることもあります。

一方、差し押さえされたのが不動産の場合。銀行は、融資審査にあたり担保に入れない不動産でも登記簿をとって調べることは多く、差し押さえの事実を知られてしまう可能性は高いです。

中小企業にとって、税金や社会保険料の滞納により差し押さえされることが圧倒的に多く、また差し押さえの前には、税務署や年金事務所(社会保険料の滞納の場合)は差し押さえを忠告してきます。税金や社会保険料はそもそも滞納しないのは当然として、もし滞納してしまい、すぐの滞納解消が難しければ、税務署や年金事務所に相談し分割支払いにしてもらうなど、しっかり交渉したいです。