あなたの会社の資金繰りが厳しい場合。これから資金繰りが困らない企業になるために取り組まなければなりません。そのためにまずやるべきこと、それは、自分の会社の毎月の損益を目に見えるようにすることです。

毎月の損益を目に見えるようにするためには、毎月、試算表を作る必要があります。試算表とは、毎月、どれだけの売上・原価・経費が発生し、そしていくら利益があったのかを集計した財務資料のことです。

試算表は、銀行から要求されてから作るものではありません。経営者が毎月の損益を把握し、もっと多くの利益を出すにはどうしたら良いか考えるための資料です。

資金繰りに困らない企業になるために、試算表をどのように作るか

資金繰りに困らない企業になるために、まずは試算表を毎月作るようになる必要があります。そして試算表で、自分の会社の利益がどれだけ出ているか、もしくはどれだけ赤字が出ているか、数字で見えるようにするところから始めます。

試算表を毎月作成するには、毎月仕訳入力を行う必要があります。仕訳入力とは、事業を行うことによる日々の取引や金銭の動きを記録することです。それを集計すると試算表になります。仕訳入力を行うには、簿記の知識と、会計ソフトの操作方法の知識がなければなりません。ただ経営者で、その知識がある人は少ないです。

ではどうしたらよいのか。次の3つの方法があります。

  1. 経営者が覚えて仕訳入力する。
  2. 経理担当者を雇って仕訳入力させる。
  3. 税理士事務所に依頼して仕訳入力してもらう。

それぞれのメリット・デメリットは次のとおりです。

仕訳入力の方法 メリット デメリット
1.経営者が覚えて仕訳入力する。 ・経営者の時間を使えば良いのでコストがかからない。 ・経営者が知識を得ることと、仕訳入力することに、時間、エネルギーをとられる。
2.経理担当者を雇って仕訳入力させる。 ・経営者の時間がとられない。

・専門性の高い人材を活用できる。

・経理担当者の人件費が毎月かかる。

・優秀な経理担当者を探すのが難しい。

・経理担当者が優秀でなければ不正確な入力になることもある。

3.税理士事務所に依頼して仕訳入力してもらう。 ・経営者の時間がとられない。

・プロを活用できる。

・安価でやってくれることが多い。

・通帳コピー、現金出納帳、請求書、領収書、給与明細など、仕訳入力のための資料は会社側で用意しなければならない。

・税理士事務所に支払う金額や税理士事務所の能力によっては、毎月やってくれない、不正確に入力されることもある。

それぞれの方法でメリット・デメリットがあるにせよ、毎月試算表を作成しそれを見て経営者が損益を把握することで、経営者が毎月経営の振り返りを行い経営改善していくことが重要です。それができないと、会社は赤字になりやすく、赤字になれば資金繰りは厳しくなります。そして決算書が赤字となれば銀行から融資を受けづらくなり、さらに資金繰りが厳しくなります。

資金繰りに困らない企業になるために、試算表を有効的なものにするには

試算表では、正確な損益を見えるようにしなければなりません。正確な試算表を作るために、特に気を付けるべきことは次の5つです。

  1. 現金主義ではなく発生主義で入力する。
  2. 在庫を抱える業種であれば毎月の棚卸を行い入力する。
  3. 補助科目を活用する。
  4. 減価償却費を毎月計上する。
  5. 税込会計であれば毎月の消費税概算額を計上する。

それぞれ見てみます。

1.現金主義ではなく発生主義で入力する。

正確な試算表を作成するにあたり気を付けるべきことの1つ目は、現金主義ではなく発生主義により仕訳入力を行うことです。現金主義とは現金の受け渡しがあった日付で売上や仕入・経費を計上すること。発生主義とは取引が発生した日付で売上や仕入・経費を計上することです。実際の例で見てみましょう。

ある商品Aを、4月15日に500万円で仕入れ、4月30日に1000万円で販売したとします。なお、そのための経費が4月30日に300万円かかりました。まとめると次のとおりです。

売上1000万円…売上発生日4月30日 売掛金回収日5月31日

仕入500万円…仕入発生日4月15日 買掛金支払日4月25日

経費300万円…経費発生日4月30日 経費支払日 4月30 日

現金主義では、各月の損益は次のようになります。

4月 5月
売上 0 1000万円
仕入 500万円 0
経費 300万円 0
利益 △800万円 1000万円

一方、発生主義では、各月の損益は次のようになります。

4月 5月
売上 1,000万円 0
仕入 500万円 0
経費 300万円 0
利益 200万円 0

この例の毎月の「利益」を見ると分かるように、現金主義で仕訳を行うと、毎月の損益が不正確になります。

なお仕訳の手間について。現金主義では、現金の受け渡しを行った日付で仕訳を行うだけです。一方、発生主義では、取引が発生した日付で仕訳を行い、その後、売掛金や買掛金・経費の入金・支払いがあった日付でもう1回、現金の入出金の仕訳を行います。このように発生主義で仕訳を行う方が手間はかかります。

ただ発生主義では毎月の正確な損益が分かるようになります。正確な損益が分からなければ、経営判断を行うための資料として経営者が使えず、経営改善を行うことができません。手間はかかっても、現金主義ではなく発生主義で仕訳を行うようにしてください。

なおよく見られるケースが、支払期日に支払いできず未払いのままである仕入や経費の発生時の仕訳を、発生日に入力しないことです。例えば、5月31日に社会保険料発生が500,000円、これを翌月6月30日に支払いますが、支払いできなかったため5月の社会保険料発生分も仕訳が漏れているケースです。このように、未払いとなっている仕入や経費の発生時の仕訳を漏れてしまうケースを良く目にしますので気を付けてください。

2.在庫を抱える業種であれば毎月の棚卸を行い入力する。

正確な試算表を作成するために気を付けるべきことの2つ目は、在庫を抱える業種であれば毎月の棚卸を行い仕訳入力することです。こうすることで、毎月、売上に対する原価がどれだけかかったか正確な数字が計上されることになり、正確な損益が分かるようになります。

ただ毎月棚卸を行うと言っても、実地棚卸、つまり在庫の現物を目で見て数えることを毎月行えば、時間・労力を多くとられてしまい、現実的ではないかもしれません。実地棚卸ではなく帳簿棚卸だけでも毎月行えるようにするとよいです。帳簿棚卸とは帳簿上で在庫金額を把握することで、在庫を仕入したら帳簿にプラスして記録し、在庫を販売したら帳簿にマイナスして記録します。そして決算期には実地棚卸も行い、実際の在庫の現物の量を数えて金額を算出し、帳簿棚卸の在庫金額と合っているか付け合せをします。

3.補助科目を活用する。

補助科目とは会計ソフトに付いている機能で、各勘定科目をさらに細かくしたものです。例えば経費の勘定科目の中に「旅費交通費」があります。旅費交通費の中に補助科目を設定します。どう設定するかは自由ですが、例えば旅費交通費であれば「宿泊」「電車」「ガソリン」「タクシー」「飛行機」「バス」「駐車」「有料道路」というように設定します。

そして仕訳入力時には補助科目も選択します。補助科目を設定するまでは旅費交通費の総額しか分からなかったのが、補助科目を設定して仕訳入力することで、旅費交通費の細かな内訳、何にいくら使ったのか分かるようになります。

例えば4月の旅費交通費が180,000円、5月が250,000円であり、旅費交通費の増加要因を調べたい場合。補助科目を見て、旅費交通費のうち飛行機代が4月0円、5月80,000円であれば、飛行機代が経費増加の一因であるとすぐ分かるようになります。

補助科目は後で分析しやすいように設定します。例えば売上高では、補助科目に取引先名を設定することで、毎月、どの取引先にいくら売上を上げたのか、分かるようになります。会社全体で売上が減っていれば、取引先ごとの売上高の推移を見れば、どこの取引先の売上が減ったことで会社全体の売上が減ったと、すぐに分析できます。

通常の仕訳入力では摘要欄に支払先名・品名・取引の目的などを入力するものです。仕訳入力で補助科目も入力するのであれば、それで一手間増えるものの、一方で補助科目の内容を摘要欄に入力しなくてよくなります。

例えばA社から売掛金入金があった場合、摘要欄には「A社 5月分」というように入力します。しかし売掛金の補助科目に「A社」を設定し、かつ仕訳入力で補助科目「A社」を入力すれば、二重に摘要欄に「A社」と入力する必要はありません。一手間増えるが、摘要欄のことを考えると一手間減り、結局一緒です。

4.減価償却費を毎月計上する。

減価償却費とは、建物や機械などを耐用年数の期間少しずつ費用化したものです。多くの会社では期末に1年間の減価償却費を計算して計上します。しかしそうすると、期の途中で減価償却費は計上されず、毎月の正確な損益を把握しづらくなります。1年分で見込まれる減価償却費を計算し、それを12カ月で割って毎月、概算で減価償却費を計上するとよいです。

5.税込会計であれば毎月の消費税概算額を計上する。

消費税が発生する企業の場合。決算書や試算表を税抜で行うか税込で行うか、それぞれの企業で決めています。税込会計で行うと期末に1年分の消費税を計上することになり、毎月の正確な損益を把握しづらいです。それを防ぐために毎月の消費税を概算で計上するとよいです。

簡易課税か原則課税か、簡易課税であれば業種は何かによっても消費税の計算が異なってくるので、毎月の消費税の概算額を計算するのは難しいです。自社が適用している消費税の計算方法を元に、顧問の税理士に消費税の概算額を毎月計算してもらい仕訳入力するとよいです。なお税抜会計では消費税を抜いた損益が計算されるのでこのような問題は起こりません。

資金繰りに困らない企業になるため、正確な試算表を毎月作れるようになろう

このように正確な試算表を毎月作れるようになれば、毎月の正確な損益が分かるようになります。それを見て経営者は、経営改善をどう行っていくか、考えられます。これは、資金繰りに困らない企業になるために、必ず通らなければならない第1歩です。