資金繰りが厳しい会社を見ると、売掛金の回収が甘い、というケースがよくあります。どれだけ経営改善を行って毎月利益が上がるようになったといっても、売掛金の回収が甘ければその分、現金は入ってきませんので、実質的に赤字になってしまいます。そうなると資金繰りに大きな影響が出てしまいます。売上を上げ、売掛金が回収になって初めて、売上を上げた意味があります。あなたの会社の資金繰りを改善するためには、売掛金の回収を徹底しなければなりません。

売掛金の回収が甘くて資金繰りが厳しい会社では、下記の現象が起こっています。

  1. 売掛金の回収がずさんである。
  2. 売上が計上されない、不正が行われている。
  3. 売掛金の回収までの期間が長い。
  4. 売掛先に後から値引きを言われる。
  5. 前受金・着手金をもらおうとしない。

売掛金の回収が甘くて資金繰りが厳しい会社で起こっている現象1 売掛金の回収がずさんである。

例えば、6月30日に支払期日となっていた売掛金を、入金がないまま7月10日になっても売掛先に連絡することなく放置している会社があります。ひどい場合は、その未入金の事実も把握していません。

この場合、逆に売掛先ではどのようなことが起こっているのか、見てみましょう。売掛先の会社が、資金繰りが厳しいため買掛金の支払いを遅らせることはよくあります。そのような会社は資金繰りが厳しく、全ての買掛金を期日どおりに支払うことができないため、支払いの優先順位をつけます。どの買掛先を優先して支払い、どの買掛先の支払いを遅らせるかを考えざるをえません。

どの買掛先への支払いを優先させるのか、判断材料の一つが、期日どおりに支払わなかった場合、しつこく督促してくる先かどうかです。しつこく督促してくる買掛先へは優先して支払い、何も言ってこない先への支払いは後回しにします。あなたの会社が、期日どおりに入金してこない売掛先にしつこく督促しなければ、支払いの優先順位を後にされてしまいます。

売掛先から売掛金を期日どおりに入金されない場合、2つの理由が考えられます。1つ目の理由は単に支払いを忘れていた、2つ目の理由は売掛先の資金繰りが厳しい、です。単に支払いを忘れていただけであればよいのですが、売掛先の資金繰りが厳しい場合、あなたの会社は一刻も早く売掛金へ督促を行い、売掛金の回収に努めなければなりません。

資金繰りが厳しい売掛先では、督促をしてこない買掛先への支払いを後回しにします。督促してくる買掛先に優先的に支払いしなければ資金繰りが回らないからです。あなたの会社が売掛金の未入金を放置し続ければ、売掛先では「あの買掛先は支払いしなくても何も言ってこないから、次の支払いも行わないで良い。」と考えてしまうかもしれません。その売掛先に対し毎月、売上が上がっているのであれば、未入金の状態を放置し続ければ未回収の売掛金がどんどん増えてしまいます。

また資金繰りが厳しい売掛先は、倒産に近い状態とも言えます。未回収の売掛金が増えていけば、あなたの会社の資金繰りはどんどん厳しくなります。そしてその売掛先が倒産した時、回収はほぼ不可能となり、大きな貸倒れが発生してしまいます。

売上を上げることに比べ、売掛金を回収することは、損益に関係ないため軽視されがちです。発生主義の会計では、商品を納入したり、サービスを提供したりすれば売上として計上されます。売掛金を回収しなくても売上は上がり、利益も上がります。売掛金が未回収であっても、損益に影響しません。しかし売掛金を回収できなければ実質赤字となりますし、自分の会社の資金繰りに大きな影響が出てしまいます。売掛金の回収状況をきちんと管理し、期日に売掛先からの入金がなければすぐに督促することが重要です。

売掛金の回収管理をどのように行うか

先ほど例に挙げた、6月30日が支払期日となっている売掛金。支払期日の翌日(休日であれば次の営業日)の朝早く、自社の預金口座に入金されているかチェックします。通帳を記帳しなければ分からないのであればチェックが遅れてしまいますので、インターネットバンキングでチェックできるようにします。

もし売掛金が入金されていなかったら、売掛先にすぐ電話を入れます。「本日お支払いいただく予定でしたが、どうなっていますか。」これだけでも売掛先は「ここはうるさいから、期日にきちんと支払いをしなければならない。」と思うものです。

実際に6月30日に支払いがなく、売掛先に電話を入れたら1、2日後に支払うと言われた場合。その売掛先はただ支払い手続きを忘れていた、と考えて良いでしょう。一方「7月10日なら支払える。」というように、だいぶ先の日に支払うと言われた場合。売掛先の資金繰りは厳しい状態と考えられます。

ここで重要なのは、売掛金を督促した際、何月何日に支払うのか約束させる、ということです。そして約束された日の夕方には、入金があったのか必ずチェックするようにします。

売掛金管理表を使って売掛先ごとに回収状況を把握する

売掛金の回収管理を行うには、売掛先ごとに売掛金管理表を作って管理します。会計ソフトには売掛金台帳があり、それを使って管理もできますが、会計ソフトに仕訳を入力しなければリアルタイムでの管理ができないため、どうしても未回収の発見が遅くなってしまいます。そのため、売掛金管理表で管理するようにします。

売掛金管理表

どんなに小さな売掛金でも、売掛金管理表で管理します。小さな売掛金でもまとめると大きな金額になります。小さな売掛金も管理できないようであれば、大きな売掛金を管理できるわけありません。

売掛金回収のマニュアルを作る

売掛金が支払期日までに入金されなかった場合、どのように動くのか。マニュアルを作っておきます。

売掛金回収マニュアルの例

毎朝、経理係が前日の売掛金入金状況をインターネットバンキングでチェックする。支払期日に入金がない状態の売掛金がある場合、経理係から、入金がない売掛先の営業担当者へメールもしくは電話で、回収がない旨を伝える。

営業担当者は当日中、遅くても翌日午前中にその売掛先に売掛金の入金がない旨を連絡し、いつ入金するか聞く。約束された入金日は、本来の支払期日の遅くとも10日後までとする。10日後までの入金を約束されなかった場合、営業係は上司を連れて、売掛先に訪問する。

遅らせた支払期日に入金がなかったら、営業係は上司を連れて、売掛先に訪問する。

後は、営業係と上司が連携して、早期に売掛金を回収するよう努める。内容証明郵便の活用、顧問弁護士への相談も考える。

なお支払期日が過ぎて1、2日後の入金を約束されなかった売掛先は、資金繰りが厳しい状態であると推測される。その場合、営業係は上司と相談し、その売掛先との取引の縮小、解消を検討する。

このようなマニュアルを作っておくと、売掛金が回収できなかった場合すぐに対応できます。

また売掛金の貸倒れを防ぐために、それぞれの売掛先の業績や資金繰り状況を常に観察しておくことが重要です。注意しなければならない売掛先に対し、売掛金や受取手形の残高を増やしすぎないよう、与信限度額(売掛金・受取手形の残高をこれ以上増やしてはならないという限度額)を決めておきます。また売掛先の不穏な動きを察知するために、どのようなことをチェックするか、社内で話し合ったり、勉強会を開いたりして社内の意識を高めておきます。

売掛金の回収は、体制作りと心がけで、しっかりしていくものです。

売掛金の回収が甘くて資金繰りが厳しい会社で起こっている現象2 売上が計上されない、不正が行われている。

せっかく売上が上がっても、その売上が社内で計上されずに請求書が売掛先に送られていなかったり、社内で不正が行われていたりするケースがあります。

請求書が送られていないケースでよくあるのが、営業担当者が売上の報告を忘れているケース、営業担当者と経理係の連携がうまくとれていないケースです。このようなことが起こる会社では、売上の、営業担当者から上司、経理係への報告漏れが発生してしまいやすい体制と言えます。報告漏れを防ぐためのチェック体制が社内にできていない場合。売上を上げても請求書は送られないことが時々発生してしまい、売掛金の回収が遅れ、もしくは売掛金の回収ができず、会社の資金繰りに影響が出てしまいます。

ある製造業では、同じ得意先に6カ月連続で請求書が送られていないことがありました。売掛先では、請求書が送られてこなければ支払いは行いません。それでどれだけ会社が損失を出しているのか、考えるとおそろしいものです。

売上は全て把握できているのか、社内の営業担当者の動きは日報などで全て把握できているのか、社内を見てください。

また従業員による不正が起こることもあります。例えば次のようなケースです。

  • コンサルタント会社のように、1人の従業員と得意先とのやりとりで全ての取引が完結する事業である場合。会社としての取引とは別に従業員個人がその得意先と勝手に取引を行い、個人でその売上金を受領している。
  • 行商のように従業員それぞれが商品を持って得意先を訪れる事業の場合。従業員が売上代金を現金で回収し会社に報告しないで自分のものとする。
  • 在庫の入荷・出荷を日々管理していない会社の場合。従業員が在庫を横流しして代金を個人で受け取り自分のものとする。
  • 営業社員が得意先からわざと安い金額で受注し、安くした分のうちいくらかを得意先から営業社員へバックしてもらう。例えば、本来なら500万円の受注金額となるべきものを300万円で受注し、安くしてもらった200万円の中から100万円を得意先はその営業社員へバックする。

従業員による不正はよく起こるものです。特に中小企業では、大企業と比べて内部管理が甘くなりがちです。また大企業に比べ給料が安い中小企業は多く、その分、中小企業の従業員はお金の不正を働くことが多くなります。また損益が赤字である会社の経営者は従業員に甘い傾向があり、従業員につけこまれやすいです。

不正を防止するにはどうしたら良いでしょうか。得意先との関係を、営業社員との関係だけにせず、その上司や社長とも、得意先との関係を築けるようにすると良いです。また就業規則などで従業員は何をしてはいけないか明記し、社内教育を徹底することが重要です。

売掛金の回収が甘くて資金繰りが厳しい会社で起こっている現象3 売掛金の回収までの期間が長い。

年商が1億2000万円、月商が1000万円の会社を考えてみます。売上を上げてから売掛金回収までの期間、つまり回収サイトが2カ月であれば、売掛金は1000万円×2カ月=2000万円が常時あると考えられます。一方、回収サイトが1カ月であれば、売掛金は1000万円×1カ月=1000万円が常時あると考えられます。

売掛金とは、売上が現金とはならず、自分の会社が資金を立て替えている状態です。回収期間が長く、売掛金が多いと、自分の会社が保有する現金は少なくなります。回収サイトが2カ月である場合と、1カ月である場合とでは、この例の会社の場合、売掛金の差は1000万円。回収サイトが長ければそれだけ保有する現金は少なくなり、資金繰りが厳しくなります。売掛先からの回収サイトを短くすることは、資金繰りの改善につながります。

回収サイトを短くするには、新規先と取引を開始するにあたって回収サイトが短くなるよう始めから交渉することが重要です。先方より2カ月後の支払いにしてくれと言われても、そのまま受け入れるのではダメです。回収サイトが短くなるよう交渉します。いったん受け入れた回収サイトを後で短くするのは困難です。

売掛先から「今(売掛先から見て)支払サイトは1カ月であるが、それを2カ月に伸ばしてもらえないか。」と交渉してくることがあります。そのような売掛先に何が起こっているのか、第一に考えられるのは、その売掛先の資金繰りが厳しくなっているということです。回収サイトを伸ばす交渉をされても、簡単に受け入れてはいけません。お人よしの社長は受け入れてしまい、逆に自分の会社の資金繰りを厳しくしてしまいます。またそのような売掛先は資金繰りが厳しい状態ですので、その後、取引を縮小、解消することも考えなければなりません。

売掛金の回収が甘くて資金繰りが厳しい会社で起こっている現象4 売掛先に後から値引きを言われる。

ある建設業の例を挙げます。元請け会社からいつも値切られます。ある月では、ある元請け会社に対し400万円の売上が発生し、売掛金400万円の請求書を送りました。しかし元請け会社から、出来高計算の認識の違いから40万円引かれ、工事の手直し代の名目で20万円引かれ、材料代の名目で60万円引かれ、その結果280万円しか支払われませんでした。このようなことが毎月行われると、資金繰りは厳しくなってしまいます。

この例のように、請求書を送っても請求書通りに支払われないケースがあります。次の原因が考えられます。

  • 得意先と契約書や発注書を交わさず口約束で金額を決めるから、後で、言った、言わない、でもめてしまう。
  • 経営者がお人よしであるから、売掛先からなめられ、勝手に値引きされてしまう。

請求書通りの金額が支払われなければ、資金繰りは厳しくなります。次のような対策があります。

  • 契約書や発注書などの書面を交わし、口約束でなく書面で残す。
  • 勝手に値引きしてくる売掛先に対し毅然とクレームを言う。
  • 下請法や建設業法など法律を勉強し、弁護士にも相談する。

なお値引きしてくる売掛先の状況を見ると、その売掛先自体の資金繰りが厳しいから、いろいろ難癖つけて値引きしてくる、というケースは多いものです。その売掛先との取引の縮小・解消も考えてみる必要があります。

売掛金の回収が甘くて資金繰りが厳しい会社で起こっている現象5 前受金・着手金をもらおうとしない。

建設業やシステム開発業など、案件ごとに着手から完成まで期間が長い事業の場合。完成までに材料費や外注費、給料などの支払いが多く発生し、資金繰りが厳しくなります。また完成してから全ての金額を請求すると売掛金の金額が大きくなるため、その分、貸倒れのリスクが高くなります。

前受金・着手金、または中間金で一部の金額を先にもらえないか、交渉してみると良いです。前受金など、こちらから交渉しなければ、得意先の方から提案してきてくれるものではありません。

売掛金の回収が甘い会社に起こっている現象を克服し、資金繰りを改善する

売掛金の回収が甘くて資金繰りが厳しい会社に起こっている現象を、最後にもう一度、見てみます。

  1. 売掛金の回収がずさんである。
  2. 売上が計上されない、不正が行われている。
  3. 売掛金の回収までの期間が長い。
  4. 売掛先に後から値引きを言われる。
  5. 前受金・着手金をもらおうとしない。

これらの現象があなたの会社に起こっているのであれば、対策をとることで売掛金をしっかり回収できるようになり、資金繰りが改善します。