手形を振り出す場面は少なくなってきている

当座預金の口座がある会社は、手形・小切手を振り出すことができます。手形・小切手は、振り出した後、受け取った相手が取り立ててから支払いするため、振り出した会社としては後払いとなる便利な手段です。そのため当座預金の開設には金融機関による厳しい審査があります。

また当座預金を開設し小切手を振り出すことはできても、手形は支払期日を数カ月後に設定できる手段であるため、手形の振り出しを認めるにも銀行の厳しい審査が必要です。最近、金融機関による当座預金開設の審査が厳しくなっています。そのようなこともあり手形の流通量が20年前に比べて3分の1以下にまで減少しています。

このような中、昔から当座預金口座を持っていて、手形を振り出すことができる会社があります。また手形を振り出すことができる会社の中には、多くの支払いを手形に頼ってしまっている会社もあります。そのような会社の決算書を見ると、支払手形勘定が大きくふくれ上がってしまっています。

手形が不渡りになるとどうなるか

手形は、受け取った仕入先や外注先が支払期日にあたり取り立てることで、手形を振り出した会社の当座預金から引き落とされて現金を回収できます。しかし当座預金の残高が足りず決済できないと「不渡り」になります。不渡り情報は全ての金融機関に出回るため、1回でも不渡りを起こすと重大な信用悪化となります。なお「でんさい」も手形と同様の不渡り制度です。

不渡りには下記の種類がありますが、通常の不渡りと言えば 1号不渡りのことです。

  • 「0号不渡り」 形式不備・呈示期間経過後・期日未到来など振出人の信用に関係のないもの。
  • 「1号不渡り」 取引なし・支払資金の不足など振出人の信用に関係するもの。
  • 「2号不渡り」 契約不履行・偽造・詐取・盗難・紛失など。

不渡りを出すと手形交換所規則に基づく不渡り処分を受け、不渡りの情報がほとんどの金融機関に出回ります。また不渡りを出してから6カ月以内に2度目の不渡りを出すと銀行取引停止処分を受け、金融機関と当座取引・借入取引が2年間、できなくなります。

手形を振り出している会社の多くは、仕入れなど買掛金の支払時に手形や小切手を振り出しています。また金融機関から融資を受けることも多いでしょう。銀行取引停止処分となると当座預金が使えなくなり、手形・小切手を振り出すことが不可能になります。また金融機関から融資を受けられなくなります。そうなると資金繰りが悪化し、事業が継続できなくなることが多いです。不渡りをきっかけに会社の継続をあきらめるケースは多いです。

また不渡りを出してしまうと手形を受け取った相手に対し大きく信用が低下してしまいます。そして手形は1社だけでなく複数の会社に対し振り出していることが多く、またそれら複数の会社同士、同じ業界であることが多く、手形が不渡りになることで業界の中で情報が出回ってしまうことが多いです。

1回目の不渡りだけでも金融機関や仕入先の業界に対する信用がなくなり、事業を続けにくくなります。1回目の不渡りを出した会社の多くは2回目の不渡りを出してしまい銀行取引停止処分を受け、それがとどめとなり事業が継続できなります。手形を振り出している会社は、不渡りにならないよう、常に資金繰りに気を付けねばなりません。

手形はメリットがある一方、不渡りというプレッシャーもかかってくる

手形は、支払サイトを長くするために便利な制度です。例えば、5月にある仕入先から300万円の仕入れが発生したとします。その仕入先との間で決めている支払条件は月末日締め翌月末日支払いで、このままでは6月30日に300万円を支払わねばなりません。しかし手形を振り出せるのであれば、50万円まで翌月末支払い、残りを3カ月サイトの手形振り出し、というような決め方ができます。この場合、6月30日に50万円を支払い、残り250万円を支払期日3カ月後の手形で振り出します。3カ月後の9月30日に仕入先が手形を取り立てることにより、250万円を当座預金から引き落とし支払います。

このように、手形を振り出せると資金繰りが楽になりますし、また手形を受け取った方としても、手形を銀行で買い取ってもらう(手形割引)ことですぐに現金化できることが手形のメリットです。

このようなメリットがある一方、資金繰りが厳しくなってきた時、手形を振り出している会社は、もし資金が足らず不渡りになったらどうしようというプレッシャーが大きくなります。手形を振り出さず買掛金の支払いのみであれば、資金繰りが苦しく支払いできなければ買掛先に待ってもらうだけで、銀行にその情報は出回りません。しかし手形の場合、不渡りとなれば全ての銀行に情報が出回ってしまいます。銀行取引停止処分もあります。

手形を振り出す会社の中には資金繰りを手形に頼ってしまう会社もある

手形を振り出す会社は、経営者や財務担当者がしっかり資金繰り管理をしていないと、手形で資金繰りを行うようになりがちです。例えば、赤字で資金が足りなくなれば手形を多く振り出す、銀行から借入れできなければ手形を多く振り出す、というように、です。そして支払手形の残高がどんどんふくらんでいき、手形決済日は不渡りを出さないように毎月大変な思いをすることになります。

手形を振り出せる会社の中には、手形のこわさを考え、手形を振り出すことをやめた会社も多くあります。毎期多くの利益を上げたり、金融機関から借入れしたりして現金預金を多く保有できれば、手形を振り出すことなく買掛金の支払いを行えるようになります。

金融機関が、新たな当座預金口座の開設や手形の発行を認めなくなってきたこと、今まで手形を振り出してきた会社の一部が手形の振り出しをやめたこと、これらが手形の流通が少なくなってきた要因と思われます。なお2013年に始まった「でんさい」は2017年で手形交換高の3.9%にすぎず、「でんさい」が手形にとって代わられているとも言えません。

手形は、時代の流れで少なくなってきています。手形を振り出している会社は、手形に頼った資金繰りをやめることを考えてください。また手形を振り出さなくても資金繰りが回るようにできないか、考えてみてください。