なぜ銀行は融資審査で資金使途を重要とするのか

企業が銀行に融資を申し込んだ後、銀行が融資審査を行う時、融資で得た資金を何に使うのかはとても重要です。融資で得た資金の使い道を「資金使途」と言います。銀行はなぜ、融資審査で資金使途を重要と考えるのか。融資で出た資金が変なことに使われたら、その融資が最後まで返済される可能性が低くなるからです。

融資で出た資金は、どんなことに使っても良い、というわけではありません。融資で出た資金が、本業の維持・成長のための運転資金や設備資金として使われるのでなければ、その融資は最後まで返済される可能性は低くなります。例えば、銀行の知らないところで勝手に、別事業への投資に使われたり、社長の趣味で高級車を買うために使われてしまったりなどです。それを防ぐために銀行は、融資の申込みがあったら必ず資金使途を確認します。

事業を回すための運転資金に使うのか、設備投資をするための設備資金に使うのか、また資金使途の具体的な内容はどうなのか。融資を申し込む時、銀行に説明する必要があります。

資金使途は大きく運転資金と設備資金とに分けられる

運転資金とは事業を行っていくために必要な資金のことで、設備投資のための設備資金以外のものを言います。

事業を行う中で、仕入先へ支払って現金は在庫に変わり、在庫が売れて売掛金となり、売掛金は一部、受取手形で回収され、売掛金が回収されたり受取手形が決済されたりして再び現金になります。現金→在庫→売掛金→受取手形→現金のサイクルの中で、在庫→売掛金→受取手形、の間は現金の状態でなく、企業が立て替えている期間です。その間は企業に現金が不足するため、運転資金の需要が発生します。これが代表的な運転資金です。

運転資金はこの他にもいろいろなタイプがあります。建設業などでよく見られる、工事の外注費や材料費の支払いが先に発生し工事代金の入金が後になり、その間をつなぐための運転資金。1年の間で在庫を備蓄する時期と在庫が売れる時期がはっきりと分かれ資金不足となる期間がある場合、その間をつなぐための運転資金、などです。

また、賞与支払いのための賞与資金、法人税など税金支払いのための納税資金といったものも運転資金の一種です。賞与や法人税の支払いは6カ月ごとである会社が多いですが、その場合、6カ月を返済期間とした融資が行われます。賞与資金や納税資金は返済期間が短く、また資金が必要な理由も明確にしやすいため、銀行が融資を出しやすい資金使途と言えます。

設備資金とは、事務所や工場・店舗などを建てる建築資金や土地購入資金、工場や店舗の機械や什器、備品などを購入する資金など、設備投資を行うための資金です。設備資金で融資を受けるには、見積書や契約書などで資金が何に使われるか、明確にしなければなりません。また設備資金では、融資実行後すぐに相手に支払うよう銀行から要求されることが多いです。そして支払った後は支払先からの領収書を銀行から見せるよう要求されたり、本当に設備購入のために使われたのか銀行員が現地で設備を確認したりすることも多いです。設備資金の名目で融資を受けながら、融資された資金を設備の購入にあてず運転資金など別の資金使途で使われてしまうことを防ぐためです。

銀行に伝えた資金使途とは別のことに融資で出た資金を使うと「資金使途違反」といって銀行との今後の融資取引が困難になったり、一括返済を求められたりするので気をつけたいものです。

銀行の融資審査にあたって資金使途を説明する例

資金使途にはいろいろありますが、下記の例を参考に、銀行に説明してください。資金使途が明確であれば、業績や財務内容が悪かったり、既存の融資をリスケジュール(返済減額・返済猶予)していたりするなど、通常であれば融資を受けるのが難しい会社でも、融資を受けられることがあります。

  • 売上が今後、増加する見込みであり、売掛金や在庫が増えることによる運転資金(増加運転資金と言います)が必要となることを売上の増加予定とともに説明する。
  • 資金繰り表で3カ月後に資金が不足することを示し、今のうちに資金を手当てしておきたいことを説明する。
  • 資金繰りが安全な経営を行うため、常時、月商1カ月分の現金を保有しておきたく、資金繰り表をもとに資金を潤沢にするための資金を確保したいと説明する。
  • 製造して在庫を増やす時期に資金が必要で、在庫が売れる時期までのつなぎとして季節資金を調達したいと、資金繰り表や売上・仕入予定の表とともに説明する。
  • 増産のために設備投資を行いたい、また設備投資の結果、売上と利益はこれだけ伸びる見込みで効果は高いから設備資金で融資を受けたいことを、設備投資効果の予測を書いた表とともに説明する。

これら資金使途の説明例のように、なぜ融資を受けたいのか、根拠となる資料も用意した上で説明すると、銀行に対し説得力があります。