買掛金の支払いを待ってもらう交渉のリスク

例えば、毎月500万円を仕入れ、買掛金が500万円発生する先に対し、こちらの資金繰りが厳しく支払いを待ってもらいたい場合。どのように交渉すればよいのでしょうか。取引先は、1カ月分の買掛金なら話を聞いてくれるかもしれません。しかしその後に発生する買掛金までは、待つわけにはいかないでしょう。

買掛金の支払いを待つことは、取引先としては、将来、本当に支払ってもらえるのか不安になります。取引先としたら、売掛金(取引先から見て)を待つのはせいぜい1カ月分まで。それ以上の分を待ってほしいと言われたら、これ以上売掛金を増やさない、つまりもう商品を売ってくれなくなったり、仕事を請けてくれなくなったりするのではないでしょうか。

もしその取引先が主要な仕入先や外注先であったら、仕入を止められたりしたらこちらは事業を継続できなくなるかもしれません。取引先に買掛金の支払いを待ってもらおうとするのは、このようなリスクがあります。

資金繰りが厳しく、買掛金の支払いを待ってもらわざるをえない場合。まず買掛金の支払いの優先順位を付け、日繰り資金繰り表を作って資金繰りをシミュレーションします。そして支払いを遅らせたい買掛金を決めたら、取引先に実際に交渉します。

買掛金の支払いを待ってもらう交渉の手順

買掛金の支払いを遅らせるにあたり、相手が最も気にすることは、遅らせた買掛金をどのように支払ってくれるのかです。そのため交渉にあたっては、買掛金をいつ、いくら支払っていくのか、支払い計画を出すことが有効です。

支払い計画は当てずっぽうではいけません。日繰り資金繰り表を作り、どのように支払っていったら資金繰りが回るのかシミュレーションした上で支払い計画を立てて、買掛先に交渉します。

日次資金繰り表(日繰り表)の作り方

買掛金を支払わなければならない先が複数あったら、支払いの優先順位を付けます。今後取引がないと思われる買掛先は、支払いの優先順位を後にします。取引が継続的に行われている会社、もしくは重要度が高い買掛先は、支払いを優先します。

買掛金は、大きい金額の買掛金もあれば、小さい金額の買掛金もあることでしょう。買掛金を500万円、支払いを遅らせたい場合。10社50万円ずつの買掛金より、1社500万円の買掛金の支払いを遅らせる方が、交渉の労力は少なくなります。そういうこともふまえた上で、支払いの優先順位を考えます。

支払いの優先順位を付けたら、買掛金の支払いを遅らせたい買掛先に対し、支払い計画をもとに実際に交渉していきます。

諸経費の支払いを待ってもらう交渉の考え方

諸経費の支払いを遅らせる交渉も、買掛金の場合と同様、日繰り資金繰り表を作り、支払いの優先順位も考えた上で支払い計画を立てます。

支払いの優先順位は、継続的な取引先を優先的に支払うようにします。例えば電気代や水道代は、電気や水道の供給を止められると事業ができなくなるため支払いを優先します。一方、1回かぎりの取引先や、今後取引することがないであろう取引先は、支払いを遅らせる候補とします。例えばホームページ制作を単発で行ってもらった場合のホームページ制作会社への支払いは、1回かぎりの取引と考えられるのであれば、支払いを遅らせる候補となります。

手形の支払いを待ってもらう交渉の考え方

支払いのために手形を振り出している会社は、手形の不渡りが倒産のきっかけになりやすいです。当座預金の残高が不足し手形の支払期日に決済できないと手形は不渡りになります。不渡りの情報は全銀行に知れ渡りますので、今後、融資を受けることが難しくなります。また不渡りを6カ月の間に2回起こすと銀行取引停止処分になります。当座預金を2年間使えなくなり、また銀行から2年間融資を受けられなくなります。

当座預金を使えなくなれば、手形や小切手を振り出せなくなります。なお銀行取引停止処分は、不渡りになった手形の発行銀行だけでなく、全ての銀行が対象です。不渡りを出すと手形小切手が使えなくなり、また融資を受けられなくなり、資金繰りに窮し、倒産のきっかけとなりやすいです。

手形ジャンプとは何か

そのため、手形は必ず決済できるようにしなければなりません。先に述べた買掛金や諸経費の支払いを遅らせることが先です。

しかし手形の支払期日が近づいているのに資金を確保できず、このままでは手形の不渡りを避けられない場合。どうすればよいでしょうか。

手形ジャンプという方法があります。通常、手形を振り出した後の決済(支払い)までの流れは、手形を渡した相手(手形の受取会社)が、自身が取引している銀行に手形の取立を手形の支払期日前に依頼し、その銀行から手形の発行銀行に手形が回ってきて、支払期日に決済という流れです。手形ジャンプとは、手形の支払期日を延ばしてもらうために手形の受取会社にお願いして、新しい支払期日の手形に差し替えてもらうことです。

手形の受取会社としては、手形ジャンプを断ったら、その手形は不渡りになってそれをきっかけに手形を振り出した会社が倒産してしまいかねず、そうなると手形の金額を受け取ることは難しくなります。そのため手形ジャンプを依頼されたら受けざるをえないことが多いです。

新しい手形の支払期日は、日繰り資金繰り表によるシミュレーションで、無理なく支払える日でなければなりません。新しい手形の支払期日にも支払えなかったと、2回も3回も手形のジャンプは受けてくれないでしょう。

なお手形の枚数がたくさんある場合、金額が大きい先から交渉を行うとよいです。

手形ジャンプの交渉はなぜハードルが高いのか

手形ジャンプを交渉しようとしても、手形の受取会社が自身の資金繰りのため銀行で手形割引を行っていると、手形のジャンプは困難です。この場合、手形ジャンプを行うためには受取会社が、すでに割引している手形を銀行から買い戻さなければなりません。しかし手形割引は資金調達を行う目的で行うものですから、手形割引で得た資金はすでに他の支払いに使われていることが普通です。そのような状況で、手形の受取会社が新たに資金を用意して銀行から手形を買戻しするのは困難でしょう。

また受取会社が自身の支払先に手形を裏書譲渡している場合も、手形のジャンプは困難です。この場合、手形の受取会社が、自身の支払いのため手形を裏書譲渡した相手の会社に対し、譲渡した手形の代わりに現金で支払ったり、別の手形を渡したりしなければなりません。なかなか難しいです。

このように考えると、手形ジャンプを行うためには制約が多いことが分かります。どうしても手形ジャンプをせざるをえない場合。早い時期であれば手形割引や裏書譲渡をされていない可能性が高くなるため、早い時期に手形ジャンプの交渉を行うことを心がけるべきです。