赤字会社の多くでは人件費の負担が大きく、経費削減を考える必要がある

もしあなたの会社の資金繰りが厳しい場合。経費削減で手をつけなければならないうちの一つは人件費です。資金繰りが厳しい会社では事業で赤字が出てしまっているケースが大半ですが、その中で大きな負担になっているのが人件費です。なお人件費は、給料だけでなく会社負担分の法定福利費(社会保険料・労働保険料)、通勤費も含みます。

赤字会社の実態を見てみると、多くの会社では、人件費に見合った利益が上がっていない状態です。従業員の多くが、それぞれの従業員にかかる人件費以上の利益を会社にもたらしてくれていない状態です。

ただ、人件費が負担だからと従業員に辞めてもらったらよい、というわけではありません。会社の利益に大きく貢献している従業員まで辞めてもらったら会社の利益は激減し、人件費の削減以上のマイナスとなってしまい、本末転倒です。ではどうすればよいでしょうか。

人件費の経費削減を考える上で、経営者は従業員を全体でなく個別で見るべき

経営者が人件費の経費削減を考える上で気を付けなければならないことは、人件費を「全体」で見るのではなく「個別」で見ることです。従業員1人1人を見てみると、支払っている人件費の何倍もの利益を会社にもたらしてくれている従業員もいれば、そうでない従業員もいます。加えて会社がそれぞれの従業員に求める役割も違います。

営業社員に対しては、売上や利益を大きく稼いでくれることを会社は求めます。総務社員に対しては、会社のスムーズな運営に大きく貢献してくれることを会社は求めます。管理職、例えば営業チームの管理職に対しては、チームをまとめてチーム全体で売上や粗利益を大きく稼いでくれることを会社は求めます。このように、会社がそれぞれの従業員に求める役割によって、異なる見方をしなければなりません。

人件費の経費削減を考える上で従業員それぞれの会社への貢献度を見る

1人1人の従業員で、個別にかかる人件費と、その従業員が会社にどれだけの利益をもたらしてくれているかを見ます。営業社員に対しては、どれだけの売上・利益を稼いでくれているかを見ます。営業チームの管理職に対しては、営業チームをまとめることでどれだけの売上・利益に貢献してくれているかを見ます。総務社員の場合、稼いでいる売上・利益を計算することは難しいですが、会社にとって、どれだけ必要不可欠な存在となってくれているのかを見ます。

人件費の何倍もの利益を会社にもたらしてくれている従業員であれば問題ありません。問題は、人件費に見合った利益を会社にもたらしてくれていない従業員です。いわば「赤字社員」です。赤字社員が会社の中で多ければ多いほど、会社の赤字が大きくなり、資金繰りはますます厳しくなります。赤字社員をどうしていくかが、会社を黒字化すること、会社の利益を大きくしていくこと、そして資金繰りを改善させることへの大きなポイントです。

赤字社員を黒字社員に変えることが重要

赤字社員に対してとる対策は次の2つ、どちらかです。

  1. 人件費以上のリターンをもたらす「黒字社員」になるようにする。
  2. 会社を辞めてもらう。

そもそも赤字社員はなぜ赤字か、次の3つの原因が考えられます。

  1. 現在の職務が、その従業員の能力と合っていない。→ミスマッチの問題
  2. 会社に大きく貢献しようと仕事をしていない。→努力不足の問題
  3. 会社に貢献しようとするものの、いかんせん能力不足である。→能力不足の問題

なぜその従業員が赤字社員なのか、これら3つの中から原因を考えれば、赤字社員が黒字社員になる道が見えてきます。

1.ミスマッチの問題であれば、配置転換でその従業員が利益に貢献できるようにしていきます。2.従業員の努力不足の問題であれば、努力させるようにします。例えば、飛び込み訪問による営業が中心の会社であれば、その従業員が1日10件しか訪問しないのであれば、20件訪問させるようにします。シンプルですが、このようなことで黒字社員に変わっていくものです。3.従業員の能力不足の問題であれば、能力がつくよう勉強させたり、実務の中でトレーニングしたりします。

このように取り組むことで赤字社員が黒字社員になることが期待できるのであれば、会社を辞めてもらう必要はありません。しかし赤字社員が配置転換を拒否したり、努力を拒否したり、自分の能力を高めることをしようとしなかったりと、赤字社員が黒字社員になるための対策を否定する場合。その場合は赤字社員に辞めてもらうしかありません。赤字社員のままでは、その従業員は永遠に、会社に対し赤字しかもたらしません。

ある人材派遣業の事例

ある人材派遣業の会社は、売上に対し人件費が高すぎという状態でした。毎月の売上が800万円、粗利益(売上総利益)300万円に対し、人件費が400万円もかかっていたのです。加えて他の経費が100万円かかっていたので、毎月200万円の赤字を垂れ流していました。

ちなみに人材派遣業は、派遣社員に対する給与は売上原価で計上しているケースが多いです。この会社も同じで、売上800万円に対し派遣社員に対する給与が500万円原価で計上されていて、差し引き、粗利益が300万円でした。そして派遣社員ではない人件費、つまり役員や総務社員、営業社員に対する人件費が400万円ありました。400万円のうち300万円は、営業社員に対する人件費でした。

営業社員に人件費を300万円支払っている中で、営業社員10名全員合わせて会社に粗利益を300万円しかもたらしていなければ、他に役員や総務社員の人件費、各種経費もありますので、会社は赤字になってしまいます。

営業社員10名の人件費とそれぞれ会社にもたらす粗利益を見ると、ある月では次の状態でした。

従業員名 人件費 稼ぐ粗利益 状態
40万円 90万円 黒字社員
40万円 50万円 トントン
35万円 20万円 赤字社員
30万円 60万円 黒字社員
30万円 10万円 赤字社員
30万円 15万円 赤字社員
30万円 15万円 赤字社員
25万円 40万円 黒字社員
20万円 0円 (入社1カ月目)
20万円 0円 (入社1カ月目)

なお営業社員それぞれが自分の人件費と同じぐらいの粗利益を稼いでくるだけでは、他の会社経費までまかなえません。営業社員に対し会社は、それぞれの人件費より多くの粗利益を稼いでくることを期待します。黒字社員であるA・D・Hに対しても、より多くの粗利益を稼いでもらうにはどうすればよいか、経営者は考える必要があります。

そしてこの人材派遣会社の大きな問題は、赤字社員が多いことです。なぜ、これら赤字社員が稼いでくる粗利益が少ないのかを考えます。営業社員の努力不足、例えば1日に5社訪問できるところを2社しか訪問せず後はどこかでさぼっているような努力不足の問題なのか。それとも1日5社訪問するよう努力しているものの、営業社員の能力不足があり成果が出ていないという能力不足の問題なのか。

努力不足の問題であれば、その営業社員に1日に5社訪問するよう義務づけ、成果を出してもらうしかありません。能力不足の問題であれば、大きく粗利益を稼いでいるAやDに営業同行させて営業のスキルを学ばせることが考えられます。このような取り組みを3カ月程度行うことによって、赤字社員が黒字社員に変われるか見ていきます。

このようにしても赤字社員が黒字社員に変われなかったり、もしくは本人が拒否して変わろうとしなかったりすれば、その赤字社員が活躍できる仕事は別にあると考え、別の仕事を探してもらうよう促すしかないです。なお新入社員は、入社して数カ月は粗利益を稼げなくても仕方ないですが、いつまでに黒字社員になってもらうか、決めておくべきです。

資金繰りが厳しい状態を脱するために経営者は人件費にいかに厳しくなれるか

資金繰りが厳しい会社であれば、事業はたいてい赤字です。赤字の会社には、赤字社員が必ず存在します。どの従業員が赤字社員であるかを見極め、黒字社員になってもらうよう経営者は取り組まなければなりません。そして黒字社員になれないのであれば、会社を辞めてもらうしかありません。資金繰りが厳しい会社の経営者が従業員「全員」に情をかけてしまえば、赤字社員が足を引っ張って会社はいずれ倒れることになってしまい、全員倒れます。経営者が従業員に愛着あるほどには従業員が会社に愛着を持っているわけではありません。資金繰りが厳しい状態を脱するには、経営者が人件費に対しいかに厳しい見方をできるかが重要です。