売上が伸びれば伸びるほど、資金繰りは良くなるとあなたは思うかもしれません。しかし多くの会社では、売上が伸びれば伸びるほど資金繰りは厳しくなります。そのカラクリをこれから述べます。少し難しいですが、読んでみてください。

会社が立て替えている金額とは何か。経常運転資金という考え方

次の会社を例に挙げます。

  • 年商1億8000万円、12カ月で割って月商 1500万円の卸売業。
  • 売上原価は仕入高と同じで、売上高の80%、1億4400万円。12カ月で割って月平均 1200万円。
  • 売掛金の回収までの期間は1カ月。在庫の回転期間は2カ月。買掛金の支払いまでの期間は1カ月。

この会社の売掛金、在庫、買掛金は、与えられたデータから次のようになります。

売掛金 1500万円(月商 1500万円×1カ月)

在庫  2400万円(月仕入 1200万円×2カ月)

買掛金  1200 万円(月仕入 1200万円×1カ月)

これを貸借対照表で見ると、次のようになります。

資産の部 負債の部
売掛金 1500万円

在庫  2400万円

買掛金 1200万円

 

資産の部に計上されている売掛金 1500万円と在庫2400万円は、在庫が売れて売掛金を回収する前の状態であり、現金を回収する前の状態です。この会社にとっては、資金を立て替えている金額が1500万円+2400万円=3900万円ある状態、となります。

一方で買掛金は、まだ現金を支払っていない状態であり、買掛先に立て替えてもらっている金額と考えます。この会社では 1200万円がその金額です。

この会社から見て、立て替えている金額は 3900万円、逆に立て替えてもらっている金額は 1200万円、その差額2700万円は、この会社が差し引き立て替えている純金額です。その分、この会社の現金は少なくなります。立て替えている純金額は経常運転資金と言い、銀行からの融資で補てんすることが多いものです。経常運転資金の計算方法は次のとおりです。

経常運転資金=(売掛金+在庫)-買掛金

例の会社の経常運転資金は、次のとおりです。

経常運転資金=売掛金1500万円+在庫2400万円-買掛金1500万円=2400万円

手形を受け取ったり、手形を振り出して支払いで使うことがあったりする会社は、この計算方法に受取手形・支払手形が加わります。そのような会社の経常運転資金は次のように計算します。

経常運転資金=(売掛金+受取手形+在庫)-(買掛金+支払手形)

経常運転資金は、銀行から運転資金の融資を受けたい時、資金の使い道として説明しやすいものです。決算書や試算表から経常運転資金を計算し、銀行から運転資金の融資を受けるための説明材料としてください。

売上が伸びれば伸びるほど資金繰りが厳しくなるカラクリとは

では、この会社の売上が伸びて、年商が2億4000万円、月商が2000万円となったとします。他の条件が変わらないとすると、売掛金・在庫・買掛金は次のようになります。

売掛金 2000 万円(月商 2000万円×1カ月)

在庫  3200万円(月仕入1600万円×2カ月)

買掛金  1600 万円(月仕入 1600万円×1カ月)

売上が伸びて年商2億4000万円となったこの会社では、立て替えている資金、つまり経常運転資金は、どう変化するのでしょうか。

経常運転資金=売掛金2000万円+在庫3200万円 -買掛金1600万円=3600万円

経常運転資金は、売上が増える前の2700万円から3600 万円となり、900万円増加しました。これを見ると、売上は伸びれば伸びるほど、会社が立て替える金額は増加し、資金繰りは厳しくなることを意味します。ほとんどの会社では、売掛金+在庫で計算される金額が買掛金より多くなるため、このような現象が起こります。

売上が伸びて経常運転資金が増加した場合。その分を、銀行から借入れして補てんすることを目指します。運転資金の融資を受けたい理由をこのように説明すると、銀行は納得しやすいです。なお、売上が伸びて増加して必要となった運転資金を増加運転資金と言います。

現金商売の会社は立て替える資金が少なくて済むが銀行から融資を受けづらい

売上代金を売り上げたその場ですぐに現金を回収できる現金商売の会社であれば、売掛金発生による資金の立替えがありません。また在庫を抱えなくてもよい会社であれば在庫分の資金の立替えがありません。このような会社であれば、売上が伸びても資金繰りは厳しくならず、銀行からわざわざ借りなくてもよいことになります。

例えば飲食店は、食材の在庫は数日分しか保有せず、売上代金は現金で回収か、クレジットカードでも数日後に回収できるため、立て替える資金はほとんどないです。

一方で、このような会社は銀行から運転資金を借りる説明をしづらいものです。

銀行から運転資金の融資を受けたい時。なぜ融資が必要なのかの説明として経常運転資金を計算します。経常運転資金の計算式「(売掛金+在庫)-買掛金」を見ると、売掛金がほとんど発生しない、また在庫も少なくて済む会社は経常運転資金がほとんどなく、運転資金を必要としないため銀行に説明しづらいです。

なお現金商売で在庫も少額で済むが、一方で銀行から運転資金の融資を受けづらい業種には飲食業の他、美容室やエステサロン、不動産仲介業などがあります。