設備資金の融資は返済期間が長い、運転資金の融資は返済期間が短い

土地を買ったり、建物を建てたり、機械を買ったりするなど、設備投資を行うことは、会社経営ではよくあります。そして設備投資には大きな資金が必要です。

大きな資金を用意するには、資金調達を行う必要があります。銀行は、設備投資のための資金は融資しやすいものです。設備投資のための融資つまり設備資金は、資金の使い道がはっきりしているので、融資を行う理由が見えやすいからです。

ただ「設備資金」としてではなく「運転資金」として融資を受けて、その資金を設備投資にあててしまう経営者がいます。

設備資金として出た融資と、運転資金として出た融資、その最大の違いは、返済期間の長さです。設備資金は、長期の返済期間が設定されます。5年~10年、場合によっては20年の返済期間に、銀行がしてくれる場合もあります。

一方、運転資金は、短期の返済期間が設定されることが多いです。3年~5年ぐらいの返済期間となりますが、数カ月~1年で返さなければならない場合もあります。なお信用保証協会保証付融資や日本政策金融公庫の融資では、7年~10年の返済期間で運転資金の借入できることもあります。しかし運転資金で融資を受けて設備投資にあててしまうと、運転資金としての借入金額を大きくしてしまうので、将来、運転資金を借入したい時に、追加で借入しにくくなります。

設備投資は金額が大きくなりがちであり、必要な融資金額は大きくなります。短期の返済期間である運転資金の融資を受けて設備投資にあててしまうと、毎月の返済金額が大きくなり、返済負担で企業の資金繰りに大きな影響があります。

設備資金の融資の返済原資はどう考えるか

設備資金として受けた融資は、返済の元手(返済原資と言います)をどう考えるのでしょうか。返済原資は次の2つです。

  • 設備投資の効果で増加した利益。
  • 設備が増えたことにより増加する減価償却費(減価償却費は費用ではあるものの現金が流出する費用ではないため、現金が流出しない代わりに返済にあてる原資と考えます)。

次のような例であれば理想的です。

設備投資金額6000万円

設備資金として借入した金額6000万円(返済期間10年・年間返済金額600万円)

設備投資の効果で増加した利益 年間200万円(a)

設備投資により増加した減価償却費 年間500万円(b)

設備投資の効果で増加したキャッシュフロー合計(a+b)年間700万円

※キャッシュフローとは事業活動で生み出される現金のこと。減価償却費は現金の流出がない費用なのでキャッシュフローに加えます。

年間キャッシュフロー700万円>年間返済金額600万円

しかし、設備投資のための資金を、設備資金としてではなく運転資金として借りて設備投資に回してしまうとどうなるでしょうか。例えば運転資金で借入し、返済期間3年とすると、

設備投資金額6000万円

運転として借入した金額6000万円(返済期間3年・年間返済2000万円)

設備投資の効果で増加した利益 年間200万円

設備投資により増加した減価償却費 年間500万円

設備投資の効果で増加したキャッシュフロー合計 年間700万円

年間キャッシュフロー700万円<年間返済金額2000万円

このように、設備資金ではなく運転資金として借りてしまい、返済期間が短いと、年間返済金額が大きくなります。そして設備投資の効果で増加したキャッシュフローでは返済はまかなえなくなります。

運転資金で融資を受けて設備資金支払いにあてると資金繰り破綻に向かう

設備資金として融資を申し込んで長い返済期間の融資を受けるか、運転資金として融資を申し込んで短い返済期間の融資を受けるか。融資を申し込む時の違いで、これだけ会社の資金繰りに影響が出てきます。

設備資金として長い返済期間の融資が受けられなかったら、代わりに運転資金で融資を受けて設備投資に回そうと考えてはいけません。その設備計画をやめるぐらいで考えないと、資金繰りは破綻に向かいます。

設備の導入で会社にどれだけの効果をもたらすのか設備投資の前に見てみる

資金繰りが厳しい会社にありがちな傾向の一つが、土地取得・建物建築・店舗設備導入・工場機械取得など、設備投資による効果を事前にシミュレーションせず、無計画に設備投資を行っていることです。

設備投資には多額の資金が必要です。そして設備投資により会社にもたらされる効果で、設備投資の資金を1年やそこらの短い期間で回収できるものではありません。設備投資により増えたキャッシュフローにより、何年もかかって回収することが通常です。

ちなみにキャッシュフローとは、簡易的には「利益+減価償却費」で計算されます。減価償却費は会計上では費用になりますが、現金が出ていかない費用なので、設備投資によりもたらされるキャッシュフローとしてみなすことができます。

設備投資のための資金は、長期の返済期間による、設備資金としての融資で確保すべきであって、短期の返済期間による運転資金の融資を受けて設備投資に回してはなりません。将来の資金繰りを厳しくさせてしまいます。

設備投資によりどれだけキャッシュフローが生み出されるか、設備投資を決定する前にシミュレーションしてみるべきです。設備投資により生み出されるキャッシュフローの範囲内で融資の返済ができるかを計算してみます。そうすると、設備投資を行うべきでないと分かることもあるでしょう。その場合は縮小して設備投資するか、もしくは設備投資をやめることも決断します。

実際、多くの会社が無理な設備投資を実行し、結果、資金繰りが厳しくなっています。安易な設備投資は資金繰り破綻に近づいてしまいますので気をつけるべきです。

手元預金を設備資金に回すと将来、資金繰りが破綻する

また、経営者が間違った資金繰りをしてしまうパターンの一つに、手元にある程度の預金がある場合、設備資金として融資を受けず、手元預金を使って設備投資してしまうことがあります。

企業では、売上の入金が多かった後や、運転資金での借入をした後など、一時的に預金が増えることがあります。その場合「儲かっているから自分の会社は預金が豊富にある」と勘違いしないことです。事業の流れの中で一時的に預金があるだけであり、それを設備投資に回してしまうと、将来、資金繰り破綻を招きます。