銀行にリスケジュール(返済の減額・猶予)を依頼することは、ほとんどの経営者にとっては初めての経験です。リスケジュールを行うとどうなるのか知らないことが多く、いろいろな不安がうずまきます。
多くの経営者が不安に思うことには次のことがあります。
- リスケジュールを行うと二度と銀行から融資が受けられなくなってしまうのか。
- リスケジュールを行ったという情報が世間に広まってしまうのか。
- リスケジュールを行うと手形割引もできなくなるのか。
- リスケジュールを行うと輸入取引を行ってもらえなくなるのか。
それぞれ見ていきます。
1.リスケジュールを行うと二度と銀行から融資が受けられなくなってしまうのか。
リスケジュールを行い返済が減額・猶予されている間は、基本的に新たな融資は受けられません。しかし経営改善が進み利益を上げられるようになり返済が再開すると、融資はまた受けられるようになります。
通常時、毎月返済を行っていれば、返済が進むにつれ融資の残高は減少していきます。融資残高が減少すれば、銀行はその減少分を埋める融資を行いやすくなります。また成長している会社には減少分以上の融資も行いやすいです。
一方、リスケジュールを行なうと、毎月の返済がなくなるもしくは毎月返済される金額が少なくなるため、融資残高が減少していかないようになります。そのような状態で銀行が新たな融資を行うと融資残高は増える一方となり、銀行としてはリスクが大きくなってしまいます。また、そもそも金銭消費貸借契約書などで約束された通りに返済できない会社は返済能力がないと言えます。返済能力がない会社に対し、新たな融資を銀行は出せません。
このような理由により、リスケジュール中の会社は基本的に新たな融資は受けられないこととなります。
ではリスケジュール中に経営改善が進み、利益を大きく上げられるようになって銀行への返済が再開するとどうなるでしょうか。
返済が再開すると、リスケジュール前と同様、返済が進むにつれ融資残高は減少していきます。それであれば新たな融資はまた受けられるようになります。
経営者の中には、リスケジュールを行うと、リスケジュール中はもちろん、返済再開した後も二度と融資が受けられなくなるのではないかと不安に思う人もいますがそうではありません。リスケジュール中は基本的に新たな融資は受けられないが、銀行への返済が再開されれば再び銀行から融資を受けられるようになります。
なおリスケジュール中でも例外的に融資は受けられることがあります。次のようなケースです。
- 経営改善計画書に新たな融資を受ける計画も含め作成・提出し、全ての銀行から同意の上でメインバンクなどから実行される、経営改善を目的とした融資。なお既存の融資の返済は減額・猶予される中、その新たな融資のみ返済を進める。
- 仕入代や外注費など先に支払わねばならず、一方で数カ月後にまとまった売掛金入金があり、一時的な資金不足となる間をつなぐ資金の融資。
- 納税資金や賞与資金など、小さい金額を、6カ月など短期間で返済する融資。
ただリスケジュール中の新たな融資の審査は通常時に比べとても厳しいです。経営改善していける見込みが高い、リスケジュール後に利益がしっかり出ている、などを見られます。
2.リスケジュールを行ったという情報が世間に広まってしまうのか。
リスケジュールを行ったことを取引先や同業他社、従業員などに知られれば、資金繰りが厳しい会社と見られ事業に支障が出てしまいかねません。リスケジュールを行った情報が世間に広まってしまうのか、不安に思う経営者は多いです。
リスケジュールのことを知っている経営者や社内の経理担当者などが他の人に言わなければ、情報が世間に広まることはありません。
また銀行は、リスケジュールの情報を外部には漏らしません。銀行には守秘義務があり、融資先企業がリスケジュールしたという情報を外部に漏らしたら大問題です。
なお帝国データバンクのような信用調査会社にリスケジュールのことを話してしまうと、その情報が掲載され取引先などに知られてしまうことがありますので、気を付けたいところです。
3.リスケジュールを行うと手形割引もできなくなるのか。
手形割引(以下、でんさい割引も同様)を行っている会社にとって、手形を割引できないと運転資金が確保できず困ってしまいます。
手形割引とは企業が売掛先から受け取った手形を銀行に買い取ってもらい現金化することですが、その手形が不渡りとなったら割引をした企業は銀行から手形を買い戻さねばなりません。そのため手形割引は企業への融資と変わらず、銀行では手形割引は融資の方法の一つとしています。そこで手形割引を行っている銀行で他の融資のリスケジュールを行うと、銀行によっては手形割引もできなくなると言ってきます。
ただ手形割引は、銀行としては貸し倒れのリスクが小さい融資です。手形が支払期日になり決済されれば銀行は回収できるからです。不渡りにならないかぎり確実に回収できる融資なので、銀行は手形割引を行いやすいのです。
リスケジュールを企業から申し込まれ、一方でこれまで手形割引も行っていた場合。リスケジュール後、手形割引を引き続き行うか、それとも行わないようにするかは、銀行ごとの判断となります。リスケジュールを銀行に依頼する際、手形割引は今までどおり行ってくれるよう交渉したいものです。
手形割引を止められてしまうと、リスケジュールを行ったところで資金繰りは回らなくなくなってしまいます。リスケジュールを銀行に依頼する際、手形割引を止められてしまえば資金繰りが回らなくなることを資金繰り表を使って銀行に説明し、引き続き行ってくれるよう交渉したいです。なお手形割引を引き続き行うにしても、次のように手形割引の厳格化で対応してくる銀行もあります。
手形割引の厳格化の例
- 手形割引の極度額(いくらの手形割引残高となるまでは手形割引を行うという極度額)の引き下げ。
- 手形割引の極度額を撤廃し、手形割引の申し込みごとに毎回審査する形に切り替え。
- 手形の銘柄(支払日に手形の金額を支払う企業)を厳選して手形割引。
- 割引料の金利引き上げ。
なお、リスケジュールを行う銀行で手形割引を止められることに備え、普段から手形割引のみを行う銀行を確保しておきたいものです。
もしどこの銀行でも手形割引ができなくなったら、手形を買掛先などへ裏書譲渡することで支払いに使う、割引料は高くなるがノンバンクで手形割引を行う、なども検討しなければなりません。
4.リスケジュールを行うと輸入取引を行ってもらえなくなるのか。
事業で輸入を行っている会社の中には銀行にLC(信用状)を発行してもらっている会社もあります。その会社が輸入業者として輸入貨物の到着後、代金を支払えなければLC発行銀行が損失を被るため、LC発行にあたっては会社の支払い能力を審査します。その点では他の融資と同じです。
また輸入業者が輸入貨物の到着後、代金を支払わずに銀行に代金を肩代わりしてもらう「銀行ユーザンス」、ユーザンスの支払期日になっても輸入業者が輸入した商品などの代金を売掛先から回収できていないなどで返済できない場合に融資に切り替わる「輸入はね返り金融」も同様です。
輸入する会社としては、銀行でLCが開設できることで輸入を行いやすくなります。またLC開設・銀行ユーザンス・輸入はね返り金融で輸入貨物の代金の支払いがゆっくりになることで資金繰りが楽になります。これら輸入取引は銀行が極度額を設定した上で行っていることが多いです。リスケジュールを行ったことで銀行で輸入取引ができなくなると資金繰りが回らなくなります。
この場合も手形割引の場合と同様、引き続き行ってもらえるよう銀行と交渉したいです。輸入する商品などの販売代金で銀行は回収できるという裏付けがありますので、他の融資のリスケジュールを行ってもこれら輸入取引は銀行に続けてほしいものです。
リスケジュールを行う一方で輸入取引が銀行でできなくなると、仕入を輸入で行うことが多い会社としては資金繰りが回らなくなり存続できなくなることを伝え、銀行と交渉します。
リスケジュールを銀行に依頼するにあたっては経営改善計画書を銀行に提出しますが、その中で銀行の輸入取引の継続は経営改善のためには必須であり協力してほしいと書きます。また銀行で輸入取引を引き続き行ってもらうことで資金繰りは回ることを資金繰り表を使って表します。