企業が銀行から新たな融資を受ける時。単独で融資を受けるのではなく、既存の融資を借り換える方法で融資を受けることにより、融資の本数が増えず、毎月の返済額が大きくなりすぎないというメリットがあります。場合によっては金利を低くできます。一方、借り換えによるデメリットには何があるのでしょうか。

ここで考えたいのが、借り換えられる方の融資は、同じ銀行の融資なのか、他の銀行の融資なのか、です。

(例)残高800万円の融資(毎月20万円返済、返済期間残り40カ月)

この融資をA銀行で1800万円(純増1000万円・毎月30万円返済、返済期間60カ月)で借り換え

この800万円の融資は同じA銀行の融資なのか、別のB銀行の融資なのか。

同じ銀行で借り換える場合。借り換え後の毎月返済額が、借り換えで増加した金額を超えて大きくならないかぎり、また借り換え後の金利が高くならないかぎり、借り換えによるデメリットはありません。この例では毎月返済額が20万円から30万円へと1.5倍になっていますが、融資金額が800万円から1800万円と1.5倍を超え増加しているので、毎月返済額が増加しているとは言えません。

借り換えのデメリットが発生するのは、他の銀行の融資を借り換える場合です。以下のデメリットがあります。

  • 借り換えされる方の銀行との関係が悪化する。
  • 借り換えにより、借り換えされる方の銀行との融資取引をやめてしまえば、取引銀行の数は少なくなり、今後、融資を受ける銀行の選択肢が少なくなってしまう。
  • 借り換えされる方の銀行がメインバンクであれば、借り換えする方の銀行が今後、メインバンクとして自社に対し融資を積極的に行ってくれるかどうか、未知数である。

銀行にとって屈辱的なことの一つ。それは、自分の銀行の融資を他行へ借り換えられることです。財務内容や業績が悪く銀行が融資取引を解消したがっている場合は除きますが。

自分の銀行の融資を他行へ借り換えられたら、銀行としては、利息の収入源を失ってしまいます。また、今まで融資でこの会社を支えていたのに、他行に借り換えられて、企業から裏切られたという感情を銀行員が抱くことも多いです。銀行の支店長の中には、感情的になり、今回借り換えの対象となっていない融資も全て返済してもらえと、部下行員に命じる人もいます。

借り換えらえる方の銀行と取引を全て解消してもかまわないと企業側が考えているなら別ですが、そうでなければ、他行への借り換えには慎重になるべきです。

なお、融資にはプロパー融資(信用保証協会の保証が付いていない融資)もあれば信用保証協会保証付融資もあります。どの融資でどの融資を借り換えるかで違いがあるのか、次に考えてみます。

他の銀行の融資を借り換える場合、提案のパターン別の考え方

財務内容や業績が悪くなければ、すでに取引のある銀行や、新規の銀行から、他の銀行から受けている融資を借り換えしましょうと提案をされるのはよくあることです。

「今ある融資の高い金利を、うちの銀行で低い金利で借り換えしますよ。」

「今ある融資を、うちの銀行で借り換えしてまとめることによって、毎月の返済を軽くしませんか。」

というセールストークを銀行員はしてきます。

借り換えの提案は、次のパターンがあります。

  1. 他行の信用保証協会保証付融資(以下、保証付融資)を保証付融資で借り換え
  2. 他行のプロパー融資をプロパー融資で借り換え
  3. 他行のプロパー融資を保証付融資で借り換え
  4. 他行の保証付融資をプロパー融資で借り換え

この中で借り換えの提案として多いのが、1.他行の保証付融資を保証付融資で借り換え、のパターンです。

1.他行の保証付融資を保証付融資で借り換え で提案された場合の考え方

保証付融資は、将来、融資が返済できなくなった場合、信用保証協会が銀行に対し融資残高の80%(制度により100%)を代わりに支払ってくれるので、銀行はリスクが少ないです。そのため銀行はプロパー融資よりも保証付融資を行うことを好みます。

また信用保証協会が一企業に対し保証できる総額は上限があり、限られた枠の中で保証付融資の奪い合いが銀行間で行われます。他行の借り換え分を含めて保証付融資を行ったら、その銀行は保証付融資の金額を大きく増やせます。なお保証付融資を保証付融資で借り換える場合、信用保証協会への保証申込時に借り換えの希望を伝え、新たに実行する保証付融資で既存の保証付融資を返済する条件を付けた上で保証承諾が行われます。

この1.他行の保証付融資を保証付融資で借り換え、のパターンの時に、前項で述べた借り換えのデメリットである「借り換えされる方の銀行との関係が悪化する。」が起きることが多いです。借り換えには慎重になるべきです。なお同じ銀行の中で、既存の保証付融資を保証付融資で借り換えるのであれば問題ありません。

2.他行のプロパー融資をプロパー融資で借り換え で提案された場合の考え方

この場合、他行の融資を借り換えしませんかと銀行が提案してきたとしても、実際に融資が実行された時、その他行の融資を返済しなくても、新たに融資を出した銀行としては構わないはずです。

例えば、C銀行のプロパー融資・残高1000万円を借り換え、D銀行が融資3000万円出しますよと提案してきた場合。D銀行は、3000万円の融資審査が中で通った(もしくはこれから通す)上でこの提案をしています。その会社がC銀行に1000万円返済しないとしても、融資3000万円を出すことに変わりありません。借り換えでなく単に3000万円の融資を受けるだけでよいです。他行の融資を返さないのであれば、その他行との関係がこじれることもありません。

 

一方、3.他行のプロパー融資を保証付融資で借り換え、4.他行の保証付融資をプロパー融資で借り換え、のパターンで銀行から提案されることは少ないです。しかし全くないことはないので、これらのパターン別も考えてみます。

3.他行のプロパー融資を保証付融資で借り換え で提案された場合の考え方

この場合、企業にとってメリットがありません。プロパー融資で審査が通りにくい企業が信用保証協会で保証してもらい融資を受けられるようにするのが信用保証協会を利用する本来の目的ですので、プロパー融資で受けられた融資を保証付融資で借り換えるメリットが企業にはありません。信用保証協会の一企業に対する保証総額は上限があり、将来、業績が悪化するなどで銀行からプロパー融資を受けづらくなった時に備え、枠を空けておきたいものです。

銀行から金利や返済額軽減のメリットをアピールされ借り換え提案されても、プロパー融資を保証付融資で借り換えるデメリットの方が大きいものです。ちなみに他行のプロパー融資ではなく、同じ銀行の中でプロパー融資を保証付融資で借り換えることは原則、信用保証協会は禁止しています。

4.他行の保証付融資をプロパー融資で借り換え で提案された場合の考え方

借り換えされる方の銀行の既存融資が保証付融資のみで、その銀行がプロパー融資を今後も行う見込みがなければ、一考の価値はあります。

プロパー融資を出す銀行は、あなたの会社に積極的に融資をしていこうと考えている銀行と言えます。貸倒れリスクを考え保証付融資しか出してくれない銀行との取引を解消し、積極的な銀行の方に融資残高を移していくことは、企業の将来の資金調達体制を考えるにあたって一考の価値ありです。なお前述の、2.他行のプロパー融資をプロパー融資で借り換え、の提案をしてきた場合と同様、この場合も他行の保証付融資を返さず、単にプロパー融資を受けるだけでもよいです。