貸借対照表で債務超過だと銀行の融資審査で大きく不利になる
決算書の内容は、銀行での融資審査で大変重視されることです。決算書の中には貸借対照表・損益計算書があります。銀行員が貸借対照表を見た時、真っ先に目が行くところは純資産です。貸借対照表の右下を見るとを見ると「純資産の部合計」とあります。これがマイナスであると、融資審査で大きく不利になります。
純資産は総資産(貸借対照表の資産の部合計)-総負債(負債の部合計)で計算されます。これがマイナスであると、その時点で資産を全て売り払っても負債を全て返しきれないことになります。純資産がマイナスであることを債務超過と言います。
また純資産がプラスであっても、貸借対照表の資産科目それぞれについて、決算書に付いてくる勘定科目内訳書を一つ一つ精査すると、価値がない資産が計上されていることがあります。例えば売掛先が倒産し回収見込みがないのに計上されている売掛金、開業時に計上して以来償却が進んでいない開業費などです。
銀行は、融資を希望する会社から決算書の提出を受けたら、貸借対照表で計上されている資産が実際に計上されている金額の価値があるのか勘定科目内訳書で見ていきます。資産価値のないものを総資産から減らしていくと、総資産の金額が小さくなります。
例えば貸借対照表で総資産5000万円、総負債4500万円、純資産500万円の場合。総資産の中に売掛先が倒産した売掛金1000万円あり、総資産5000万円から売掛金1000万円を引くと実質総資産は4000万円となります。実質総資産4000万円-負債4500万円=実質純資産△500万円となります。
貸借対照表の表面上は純資産がプラスであっても、実質の総資産から総負債を引いた実質の純資産がマイナスとなれば、実質債務超過となります。この場合も融資審査で不利になります。純資産を表面ではなく実質でもプラスに維持することは、融資審査を通りやすくするためにはとても重要です。
純資産がプラスの場合、その金額が大きければ大きいほど、財務状況は良いとされます。また純資産を総資産で割った自己資本比率が高ければ高いほど、財務状況は良いとされます。財務状況が良いほど融資は受けやすいです。
債務超過を解消して融資審査を有利にするためにできる5つのこと
決算書の貸借対照表の純資産がマイナス、つまり債務超過であったら、銀行の融資審査がとても不利になります。債務超過は早く解消したいものです。また債務超過であったら、銀行から、債務超過を解消していくための計画を提出するよう求められることも多いです。
債務超過を解消するには次の方法があります。
- 毎期、当期純利益の黒字を積み重ねていって債務超過の金額を減らしていく。
- 資本金を増資する。
- 社長などが会社に貸しているお金(役員借入金)があれば債権放棄(会社から見れば債務免除)する。
- 社長などが会社に貸しているお金(役員借入金)があればそれを資本金に振り替える
- 社長などが会社に貸しているお金(役員借入金)があれば社長などへの返済を役員報酬代わりとし利益を大きくして債務超過の金額を減らしていく。
債務超過を解消する5つの方法をそれぞれ見ていきます。
債務超過解消法1 毎期、当期純利益の黒字を積み重ねていって債務超過の金額を減らしていく。
例えば、債務超過が△1000万円あり、今後毎期、当期純利益を400万円上げられれば、
1期後(純資産△1000万円-当期純利益400万円)=純資産△600万円
2期後(純資産△600万円-当期純利益400万円)=純資産△200万円
3期後(純資産△2000万円-当期純利益400万円)=純資産+200万円
このように3年で債務超過を解消できます。今後の経営計画を示し、利益を積み重ねていくことで債務超過を解消する計画を銀行に示し、債務超過の中、融資審査を少しでも有利にしたいです。
債務超過解消法2 資本金を増資する。
例えば、貸借対照表の純資産の部で資本金300万円、繰越利益剰余金△700万円で、純資産が300万円-700万円=△400万円の債務超過の場合。翌期の当期純利益が0円として、社長が700万円の預金を持っていて700万円を増資すれば資本金1000万円となり、純資産は資本金1000万円-繰越利益剰余金700万円=+300万円となり翌期に債務超過を解消できます。
債務超過解消法3 社長などが会社に貸しているお金(役員借入金)があれば債権放棄(会社から見れば債務免除)する。
例えば、貸借対照表の純資産の部で資本金300万円、繰越利益剰余金△700万円で、純資産が300万円-700万円=△400万円の債務超過の場合。また負債の部を見ると社長からの役員借入金が500万円ある場合。
翌期の当期純利益がこのままでは0円になるとして、社長が会社に貸している500万円を債権放棄し当期純利益が500万円(青色欠損金が500万円以上あったため法人税等が0円であったとして)となれば、繰越利益剰余金は△700万円+500万円=△200万円となり、純資産は資本金300万円-繰越利益剰余金200万円=+100万円となり翌期に債務超過を解消できます。
債務超過解消法4 社長などが会社に貸しているお金(役員借入金)があればそれを資本金に振り替える
DES(デッド・エクイティ・スワップ)と呼ばれる手法です。例えば、貸借対照表の純資産の部で資本金300万円、繰越利益剰余金△700万円で、純資産が300万円-700万円=△400万円の債務超過の場合。また負債の部を見ると社長からの役員借入金が500万円ある場合。
翌期の当期純利益が0円として、社長が会社に貸している500万円を資本金に振り替えれば、資本金は300万円+500万円=800万円となり、純資産は資本金800万円―繰越利益剰余金700万円=+100万円となり、翌期に債務超過を解消できます。
債務超過解消法5 社長などが会社に貸しているお金(役員借入金)があれば社長などへの返済を役員報酬代わりとし利益を大きくして債務超過の金額を減らしていく。
例えば、貸借対照表の純資産の部で資本金300万円、繰越利益剰余金△600万円で、純資産が300万円-600万円=△300万円の債務超過の場合。また負債の部を見ると社長からの役員借入金が1000万円ある場合。そして社長への役員報酬は年間800万円(手取り600万円)の場合。
翌期の当期純利益がこのままでは0円として、1年間役員報酬を0円とし、代わりに会社から社長への役員借入金返済を年間600万円行い当期純利益が600万円(青色欠損金が600万円あったため法人税等が0円であったとして)となった場合。純資産△300万円+当期純利益400万円=+100万円となり翌期に債務超過が解消されます。
債務超過を解消するには税金面も考慮を
2.資本金を増資する、3.役員借入金を債務免除する、4.役員借入金を資本金に振り替える、これらの方法をとる場合。気を付けなければならないのは税金面です。
2.資本金を増資し、債務超過が解消されれば既存株主の株式価値が何もしないのに上がるため贈与税がかかる可能性がある。
3.役員借入金を債務免除して利益を上げ青色欠損金が少なくなれば、将来の黒字の時に支払わなければならない法人税等が多くなる。もしくは債務免除を行って利益を多く計上したことで青色欠損金を使い果たした上、法人税等が多額に発生する。
4.役員借入金を資本金に振り替えれば、実質、債務免除と同じであり、「債務消滅益」という利益が生じる可能性がある。
以上を考えなければなりません。2・3・4の方法は一発で債務超過を解消できる手法であり、決算期が近い時など即効性のある手法なのですが、一方で税金への影響を考える必要があります。これらの手法をとりたいのであれば顧問税理士にも相談してください。
なお、税金を多く支払ってもこれらの手法を使い債務超過を解消し、銀行からの評価を高くし融資審査を通しやすくする方を優先するという考え方は当然ありえます。何を優先するか、最後は経営者が決断しなければなりません。